episode1

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 何かある度に、こっそり学園を抜け出しては会いに行っていた。  会いに行っていたといっても彼は俺の名前も知らなければ、きっと顔も覚えてない。  この想いは完全に一方通行。交わることはきっと一生ない。  ……と、思っていたのだけど。 「と、冬吾くん?!」  自分の通っている学園に、季節外れの転入生がやってくることになった。高等部にあがったばかりの5月上旬。  所謂お金持ちの家の子供が集まる全寮制の男子校。所在地は郊外の山奥。こんな学園に、こんな時期に転校してくるだなんて不思議なやつだなと呑気に思っていれば……飛び込んできたのはなんとずっと自分が恋い焦がれていた(?)人物だった。 「あれ?俺のこと知ってる? ここにもそんなやついるなんて意外ー」  そう言って笑う彼の名前は篠宮冬吾(しのみやとうご)。季節外れの転入生で、今日から俺の同室者だそうだ。  ちなみに某雑誌の売れっ子読者モデル。 「え? ……あ、妹、が冬吾くんのこと好きで、俺も何度かイベントとか行ったことあるから……」 「まじで? ありがとー。妹さんにもよろしく言っといて。えーっと」 「あ、ごめん、俺、高橋由人(たかはしゆいと)。……今日からよろしく」  よろしくと笑う彼の笑顔は、相変わらず女子顔負けなレベルでかわいい。 (………まじかよ)  先程彼にした説明には一つだけ嘘がある。  去年の夏休みに実家に帰った時に目にした、メンズのファッション雑誌。  俺には妹がひとりいるだけで男兄弟はいないから、不思議に思いながらもリビングに置いてあったそれを手にした時に見つけたのが彼だった。  はじめは女の子かと思った。ショートカットでボーイッシュな服装をしてる女の子。好みのタイプど真ん中。芸能人を特別好きになったことがなかった俺からしたらわりと由々しき事態だ。  見惚れている間に戻ってきていた妹にこれは誰かと聞くと「冬吾くん? かわいいよねー」と返された時の衝撃といったら。 「……とうご、くん?」 「そうそうー。いま凄い人気だよ。本当に女の子みたいだよね! わたしが好きなのはこっちの人なんだけど~……」 「え、ちょっと待って、……これ男?」  妹が指差すのは長身でいかにもモデル! って感じの美形。冬吾くんと並ぶ姿はまさに美男美女。「? あ、もしかしてお兄ちゃん冬吾くんのこと女の子だと思ってた? 好きになっちゃった?」なんて楽しそうに笑う妹を横に、学園のあんな環境で周りがどんどんと目ぼしい同性に手を出していく中、必死に貫き通していたノンケという意識がはじめてぐらつくのを感じた。 ──そう、別に妹がファンだったわけじゃない。完全に俺の一目惚れだ。
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