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(episode 1.5)
(side:冬吾)
転校初日。
自己紹介をするとぽかんと固まってしまった彼を思い出す。
何もかもが嫌になって家を飛び出してみたものの、1年もしたら強制的に連れ戻されて放り込まれたこの学園。
それなりに楽しくやっていたから不満も大きかったけれど、1年間は好きにやらせてくれたんだからまぁいいかと諦めの気持ちも大きかった。
俺だって自分の置かれている立場が全くわかっていないわけではない。
その"立場"だけを見て寄ってくるやつらにうんざりしていたから、自由にやれたあの1年が俺にとっては本当にかけがえのないものだったりする。
だからこそ、憂鬱でしかなかった転校初日。
まさかその1年間の俺のことを知っているやつがいるだなんて思わなくて。
真っ黒だけど柔らかそうな髪の毛に、まぁごくごくありふれた顔。色が白いからなんとなく雰囲気はでそうだけど、いまいち垢抜けない。
どうやら妹が俺のファンらしい。なるほど。
それにしても、妹につきそって女だらけのイベントに来るとかどんだけいいお兄ちゃんなの?──それが最初の感想。
なりゆきで家のことを話すとさらに驚いた様子だったけど、単純に驚いてるだけみたいだったから不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
とりあえず同室者兼クラスメイトに友達になれそうなやつがいてよかったと手を差し出すと、普通に握り返されてまた嬉しくなった。
「……あ、あと、俺、モデルで雑誌に載ってたりイベントに出てる冬吾のこと何回か見たことあるけど、十分すごいと思ったよ」
俺の立場を知った上で、あたりまえのように俺自身を褒める由人に驚いて、……今までにないくらい満たされた気持ちになったことは今でも鮮明に覚えてる。
(……由人、か)
いいやつかも、それが二番目の感想。
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