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episode10
「ファンミやろうよ」
とりあえず週に一度行うことになった親衛隊の進捗報告会。発案者は冬吾で、自分の知らないところで自分が関係していることが進むのが嫌!らしい。なるほど。冬吾らしい。
「ファンミ、ですか?」
「そうそう。ファンミーティング。どんな人達がいるのか純粋に知りたい」
話し合いのメンバーは、隊長である宮野と、何故か副隊長に任命されていた俺と(俺の許可なく勝手に冬吾と宮野で用紙に名前を書いていたらしい)、冬吾本人。
「冬吾くんさえ良ければ、みんなは喜ぶと思いますけど……本当に良いんですか?」
「俺がやりたいって言ってんじゃんー。……って由人、話ちゃんと聞いてる?」
報告会と言ってもいつも冬吾と宮野が雑談をして終わる感じだから、俺は俺でいつものように授業で出された課題を片付けていると急に話をふられた。これって俺も参加するやつなのか。
「…ファンミやんの?」
「うん。よくない?」
「……いいんじゃない」
読モ時代のイベントで人前に立つのは慣れてるだろうし。冬吾も上手く立ち振る舞えると思う。
親衛隊ができてからは冬吾の人気はさらに加速していってる。親衛隊の規模も、生徒会役員等の桁違いなところを除けばそれなりに大きい方だ。
俺に対しての視線もより一層厳しくなりそうなのに……思っていたほど酷くなっていないのは、副隊長兼お友達のポジションと、その発案を含め宮野の力も大きいと思う。本当にできる子。感謝しかない。
「月一で開いている集会があるので、そこに来て頂くのが一番簡単ですかね」
──あぁ、あれか。
肩書きは副隊長でもあるから、月一の集会には一応俺も参加してる。これも宮野に言われた。その方がきっと仲間意識が生まれやすいからとかなんとか……和気藹々としてて良い雰囲気だなといつも思う。
「じゃあ何やるか考えよーぜ」
にこにこと話す冬吾は実に楽しそうで、もの凄くかわいい。けど。
「何するつもりなん……?」
「?それを今から考えるんだろ」
「あの、普通にお話しするだけではないんですか?」
「そんなんじゃ別にその辺すれ違った時でもできんじゃん。もっと思い出に残るようなことにしようぜ」
その辺すれ違った時に冬吾に声を掛けられる生徒がまず少なすぎるし、おそらく親衛隊に所属しているメンバーからしたら定例集会に冬吾が来るだけでも十分に思い出に残るとは思うのだけれど。
もうすっかり何かを企画する気になってる冬吾に言っても聞かなそうだったから言うのはやめた。
猪突猛進、って、わりと冬吾のためにある言葉だと思う。
「んー、ツーショチェキ会とか?」
「え、刺激強すぎない?というか今結構人数いるから回すのめちゃくちゃ時間かかりそう」
「そうですね……個々での接触があるものは管理面での問題もあるので、やるとしてももう少し体制が整ってからの方が……」
「そっかー。じゃあ何がいいだろ。由人なんかない?」
「ムチャ振りすんなよ……」
きらきらと楽しげな視線を向けられて、何かないかと思案する。冬吾って周りを巻き込むのも上手いと思う。
「……あ、俺あれ好きだったな。質問コーナーとかお悩み相談コーナー」
イベント等でわりと企画されることが多い、事前に参加者から質問や悩みを募集しておいて演者が答えるやつ。
冬吾の回答って誰も傷つけないけど変に媚びてもなくて、男だとわかった後もファンで居続けたひとつのきっかけだった気もした。
「それならこちらでも企画しやすいですね。次の集会までにも間に合いそうです」
そう言って宮野が微笑み、それにつられるように冬吾も笑顔になる。なにここ癒しの空間すぎる。
「じゃ、予定あけとくから色々よろしくねー。ふたりとも」
冬吾も納得したようだし、とりあえず今月の報告会はそこで解散となった。
来月のファンミ、無事に終りますように。
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