100人が本棚に入れています
本棚に追加
(episode 3.5)
(side:冬吾)
「冬吾、俺の数IIのノート見てない?」
先程から何かを探してるらしい由人が振り返る。
ソファーのクッションを持ち上げてみたりしてるけど、いや、そこにはないだろ。どう考えても。
6月上旬。もうすでに由人は来月にある試験対策に勤しんでいるらしい。
最近は教室でも部屋でも勉強してばっかりで一向に構われない感じが少しだけ退屈だったりもする。本人には言わないけど。
「ん、借りてる」
「は? いつのまに?」
由人、頭良いからノートもめちゃくちゃ見やすいしわかりやすいんだよな。
気づいたら意識を飛ばしていた授業の後に、(勝手に)ちょっと借りていたのを今思い出した。
「使いたいから返して」
「えー。なんに使うの?」
「勉強だよ」
あたりまえだろ、って怒る由人がおもしろくてついついからかいたくなる。いるよな、からかいがいのあるやつって。
「じゃー俺にも勉強教えて」
「…………ほんとにやる気あるの」
「というかテスト前だからって勉強しすぎじゃない? 由人頭いいんだからそんなにいらないでしょ」
前に何かでテストの話になった時、毎回学年で10番以内には入ると聞いて驚いたことがあった。普段の授業とかでも頭いいんだろうなって思ってはいたけど、なんだか少し意外にも感じて。
「長所は伸ばせって言うだろ。早く返して」
「わかったって。でも由人、テストとか順位決めるのあんまり興味なさそうなのに意外とそういうの気にするんだね」
なんで? って聞くと、なんだか気まずそうな顔。
明らかに何か理由がありそうなのに、普通そういうもんでしょ、なんて濁すから。
(……隠し事されるの嫌いって言ったのになー)
どうしても言いたくないことなら別にいいけど、今回のはそんな感じじゃないからちょっとだけ意地悪した。
「理由教えてくれるまで返さない」
「は? というか別に理由なんかない」
「絶対嘘。前言ったこと忘れた?」
ちょっと困った顔。
やっぱり思い当たることあるんじゃん。
じっと見つめると、わりとすぐに観念した顔になった。どうやら素直に教えてくれるらしい。
「じゅ、10番以内には入らないとはじめがうるさいから……」
凄く言いたくなさそうに喋る姿は何か幼児的なかわいさがあるけども。なんていうか由人って弟キャラ? 何かと構ってしまいたくなる気持ちはすごくわかる。
けど。
「はじめって、なんだっけ。風紀委員の? 副委員長だっけ?」
「そう。もう話したんだからいいだろ、はやく返して」
「……幼馴染なんだっけ?」
「そーだよ」
あのやたらと距離の近い、由人大好きが溢れてた。って言葉に出しそうになったのを何とか堪えた。由人余計怒っちゃいそうだし。
「………付き合ってるの?」
「はぁ?!」
「なんかそんな雰囲気だったじゃん」
「そんな雰囲気ってどんなだよ! 何言ってんの?!」
「ふーん。でも由人もそいつのために勉強頑張ってるんでしょ?」
「そ、れは……」
言い淀んだ由人に視線で先を促すと、諦めたように肩を落として理由を教えてくれた。
「10番以内に入らないと、付きっっっ切りで家庭教師しようとするから」
なるほど。
「……随分と大好きなんだね、由人のことが」
「いやはじめの中で俺の成長が止まってるだけなんだよ幼稚園くらいから。絶対」
そんなことはないと思うけど。
とりあえず自分の考えを信じ込んでいそうな由人に新しい見解を与える必要もないかとスルーした。
ちなみにそのはじめとやらは、入学してからずっと学年一位をキープしているらしい。
ほんと、どこまでも嫌味なやつだ。
最初のコメントを投稿しよう!