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episode12
もうそろそろ期末試験を意識し始めてきた6月上旬。試験対策をどうするかぼんやりと考えていると、昼休みにクラスの担任に呼び出された。なぜだか冬吾とふたり。
「お前ら、今日の放課後生徒会室な」
「は? なんで?」
「……お前、敬語忘れてんぞ」
ため息をつきながら項垂れるこの教師は、イケメンだけど中身はまともな苦労人だ。
俺自身がこの学園の色恋沙汰に染まっていないと知られているからか、日直の時などに色々と愚痴られたことが何度かある。なんというか、話だけでも毎日大変そうだった。
冬吾も変に贔屓したりしないこの教師のことが気に入っているみたいで、この学校の中では珍しく懐いている方だと思う。いいことだ。
「とにかく、忘れず行けよ」
後でネチネチ文句言われるのは俺なんだから、と念を押されて、生徒会の面々のことを思い浮かべた。
生徒会メンバーは人気投票で決まる制度などではないにしても、家柄、成績、ビジュアル全てを兼ね備えているような人しか選ばれない。俺みたいな平凡からは縁遠い人達。
触らぬ神に祟りなしではないけど、この学園で平和に暮らすには人気者には近寄らないに越したことはない。
冬吾と一緒にいる時点でそこには反してるんだけど、生徒会となると大分規模が違いすぎる。
可能なら個人的なかかわりなど一切持たずに卒業を迎えたいところだ。ほんとに。
「冬吾はまだしも、なんで俺まで呼ばれたんですか?」
俺が呼ばれるのもわかんないだろー、と隣でぶつくさ言ってる冬吾をとりあえずスルーして、担任教師である目の前の男性、前山博喜に視線を向けた。
「なんでって……さぁ? 向こうのご指名なんだから仕方ないだろ」
向こうのご指名……ご指名されるような心当たりがひとつもないのだから正直困る。冬吾はこの人気だから、呼ばれた理由もなんとなく察しはつくんだけど。
── 一緒にいるのやめろとか言われるのか?
いや、冬吾をちゃんと来させるためのただの餌かな──
考えられる答えを頭の中で探しながら、「とりあえず放課後。忘れんなよ」と言う前山の言葉に、はぁ、と曖昧に頷いた。
どれだけ考えても理由はよくわからないけど、とりあえず生徒会室には行かなければいけない、らしい。
厄介なことこの上ないイベントをなるべく平和にやり過ごせるよう願いながら、放課後までの憂鬱な時間をすごした。
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