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episode2
それから随分と悩んで、彼の出演するイベントに足を運んでもみた。
イベントがあるのは大抵土日。実家に帰ると適当な嘘をついて寮を抜け出した。
冬吾くんは実物を見ても本当にキレイな女の子みたいで、でも自分と同じ性別だという事実に絶望したのを今でもしっかりと覚えてる。
「………近くでみると、男と言われてみれば男か?」
「は?」
「いや、ほんと女子みたいだなーって」
「あははっ、なんだよそれ」
骨格とかは女の子ほど柔らかい印象はなく、長身のモデルに囲まれていたから小さいイメージがあったけれど、それなりに身長もありそうだ。というか俺より少し高いかも。
「というかなんで転校?」
「え? んー、家庭の事情?」
「そ、そう……」
言葉を濁らせる彼に聞いちゃマズかったかな、と少し後悔していると「そんな複雑な事情じゃないけど」と彼が笑った。
「色々小煩い家が嫌になって勝手に家飛び出して好き勝手してたけど、いい加減にしろって連れ戻されて放り込まれただけ」
なるほど。なんてアクティブな。
よくよく聞いてみれば、彼は金持ちばかりが集まるこの学園でも一目置かれるような大企業の御曹司だった。
……なんという高スペック。
そこそこの金持ちでどこにでもいそうな顔をした俺とは大違いだ。
彼のファンになってから少しだけ身なりは意識するようになったけど、服装を変えたからって顔やその他諸々が変わるわけじゃない。
彼が出るようなイベントには、彼が載っている雑誌のように服を着こなしたお洒落な人が溢れてる。浮かないように必死だったんだ俺も。
「すごいね冬吾くん……」
「別に俺は凄くねぇだろ。……というか同級生からくん付けされるのぞわぞわする」
「え? あ、……じゃあ、篠宮?」
「別に冬吾でいいよ。俺も由人って呼んでいい?」
「も、もちろん」
「よし、じゃあこれからよろしくな由人」
差し出された手を握りよろしくと返せば嬉しそうに微笑まれた。
この学園の生徒じゃなくても騒ぎ立てるような笑顔の彼は、思っていたよりも中身はずっと男前で、なんとなく同性だということを実感した。
「……あ、あと、俺、モデルで雑誌に載ってたりイベントに出てる冬吾のこと何回か見たことあるけど、十分すごいと思ったよ」
確かに家柄についても凄いと思ったけれど……自分が思っていたことを口にすると、一瞬きょとんとした後で照れたように微笑まれた。
「……ありがと」
そうはにかむ彼は本当に女子顔負けのかわいさで。
俺はこれからの共同生活に不安を抱くのだった。
貫けるのか俺のノンケブランド。
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