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episode18
「おわったぁーーーーー」
前の席の冬吾が大きく伸びをしてから、くるりとこちらを振り向いた。きらきらと笑顔がまぶしい。かわいい。
「……おつかれ」
「な。由人ここ答えどれにした?」
「A」
「まじか俺Bだ」
なんとか終えられた試験期間。今までの自己採点の結果から見ても、俺も冬吾も結構良い点数を取ることはできていると思う。
絶対にはじめのおかげなところも大きいから、今度会ったらお礼言っとかなきゃ。久々に勉強みてもらったけど、相変わらず教師よりも教えるのがうまかった。すごい。
「あ、そういや由人夏休みどうすんの? 実家帰る?」
もうすっかり試験のことなんて頭にない様子でスマホをいじっていた冬吾が、ふと顔をあげたと思ったらそう問いかけてきた。
生徒会問題のこともあるのに、一番の当事者である冬吾は目前の夏休みに心を奪われているらしい。冬吾らしいと言えば冬吾らしいけど。
「んー……冬吾は?」
「俺は残るかなー。帰ってもどうせ小言と監視がうるさいだけだろうし。こっちの方がまだ好きにできそう」
「そっか。……じゃあ俺も「帰るよね、実家」
教室が小さくざわついたと思ったら、両肩にぽんと手を置かれて聞き覚えのある声が上から降ってきた。
「え、はじめ……?」
「美玖ちゃんの勉強みてやるんだろ。忘れたの? 今年進級試験だからってあんなに美玖ちゃん頼んでたのに」
「あー、そうだったな……というか何ではじめが一年の教室にいるの?」
教室中から好奇の目が向けられているのを感じながら、軽く非難をこめた視線を送ると、「二人分も試験勉強手伝ってあげたのは誰だったかな」と笑顔で返された。教室からは一部黄色い悲鳴があがったけど、この笑顔のどこがそんなに良いのかはわからない。でも何も言い返せないもどかしい。俺自身も今回特に良い結果が出てると思うからこそ余計に。
それに関してはありがと、と素直にお礼を言うと、はじめの存在なんて視界に入ってない素振りの冬吾が話しかけてきた。
「由人妹いるんだっけ? みくちゃん? どんな子? 見たい!」
「いや別に普通の」
「見たい見たい見たい」
「えー……」
写真あったかな、とスマホを探していると、これまた冷たい笑顔のはじめが割って入ってきた。
「というか篠宮には関係ないから。な?」
由人、帰るよね? と念を押されて、少し考える。こんなこと言ったら殺されそうだけど、美玖の存在をすっかり忘れてた。
「……とりあえず美玖と相談してみる」
それと、冬吾の生徒会問題もまだ片付いてはいないし。それによっては夏の予定も変わりそうではある。
いや、仮に冬吾の生徒会入りが決まったとしても、この後に俺の出る幕はないだろうけど。たぶん。
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