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episode3
「……大丈夫?」
彼にとっては登校初日。
目の前には部屋に帰るなりリビングのソファーに倒れこんだ冬吾の姿。
心配した俺の問いかけに、今にも泣きそうな声で大丈夫じゃないと返してきた。……どうしようすごくかわいいんだけど。
「想像以上の人気だったな」
「……俺こんなに騒がれるのはじめてかも。なんか女の子よりパワーあるよな」
「まぁ、みんな男だから」
「そういう問題じゃないような気もするんだけど……」
ぐったりとする冬吾にとりあえず夕飯はどうするか聞くと、ひとつ唸っただけでちゃんとした返答がない。
……あ、いま「食堂はやだ」とか弱々しく言った気がする。……昼休みに行った時も確かに散々だったもんな。俺も何あの平凡的ないろいろが非常に痛かった。
クラスメイト達が早々とリタイアしていく中、取り残された俺が冬吾のことを放っておけるわけもなく……もう今後の事とか考えるのはやめよう。どうせ悪い想像しかできない。こわい。
「じゃあ、なんか作る?」
「……由人料理できんの?」
「それなりには。でも食堂の方が絶対美味い」
「それはやだ」
「……あ、コンビニでもいいか」
俺がそれなりに料理ができるのはそれこそ大したことのない家庭の事情なので割愛。
普段は滅多に利用しないせいか存在を忘れていたコンビニという手段を思い出すも、何だか虚ろな目で「由人作ってよ」という冬吾に負けた。
「じゃあ買い物行ってくる。なんか食べたいものある?」
「ベーコンとほうれん草のキッシュ」
「いい加減にしろよ?」
お洒落なのは外見だけにしてくれ。
「とりあえずコンビニで適当に買ってくる」と腰を上げると、焦ったような冬吾が「やっぱりオムライス」と言った。
「オムライスでいいの?」
「ほんとはスタバのソイラテとキッシュがいい」
「……………」
「でもオムライスも好き」
クッションを抱え込みながら項垂れている姿は本当にかわいくて、ついつい何でも許しそうになる。なるけど、そういう問題ではないのだ。
ここにはスタバだなんてものは存在しないし、部屋にはオーブンもないからキッシュなんてものも作れない。ソイラテなんて上手く淹れれるわけがない。
今までそういう環境で生活していたんだろうから仕方ないのかもしれないけど、ここでは無理だ。
……無理なんだけど、
「……食堂の人に言ったらなんとかなるかもしれないから、言ってこようか?」
こう甘くなってしまうのは惚れた(?)弱みというやつだろうか。
いや、もう普通に友達でいることを決心はしたんだけど。接してみれば接してみるほど、冬吾はちゃんと男だし。……なんか複雑だけど。
それに、やっぱり俺は女の子が好きだ。どんなに外見が好みのタイプでも、やっぱり男は範囲外だ。割と早い段階でそこに気づいた。気づけて良かった。
メニュー的にもテイクアウトしやすいし、なんとかなるかな、なんて考えていると、「オムライスがいい」と、どうやら意地になってるらしい冬吾に気圧されて、俺は結局スーパーへと足を運んだ。
「……おいしい」
「普通だろ? 食堂の方が絶対美味いし、コンビニの方がまだましかも」
「レンジでチンするやつって何か食べる気にならないんだよなー」
「それはわかる」
「でもほんと美味いよ。ありがとー」
やっぱり女子顔負けな笑顔で微笑まれて。……友達でいることを決めはしたけれど、ときめいてしまうのは仕方ないと思う。本当にこの顔好き。
……妹とかいないのかな。
今度聞いてみよう。
そんなことを考えながら、自分でつくった(見栄えとかいろいろいまいちの)オムライスをつついた。
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