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episode4
冬吾と同じ部屋で暮らすようになってから、洗面台の周りによくわからないものが増えたような気がする。
……というか確実に増えている。
「……これなに?」
並べられた容器の数々を眺めていると、隣で歯を磨いていた冬吾が不思議そうに首を傾げた。
「は? ……化粧水とか乳液とか?」
「これは?」
「ヘアオイル」
「こっちは」
「似たようなスプレー」
他にもヘアパックからフェイスパック、各種美容液、スクラブ、ワックスだのわかるものからよくわからないものまでとにかくずらっと並べられている。
「………女子か?」
「あははっ、女子な。でもなんかもう癖になってるしな~」
確かに。少し前までモデルをしていたのだから仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
冬吾の肌は本当にめちゃくちゃ綺麗だし、風呂上がりとかもなんか良い匂いがするからなんとなく困る。どういう感情を抱くのが正解なのかがわからない。冬吾は性格や言動は男だけど、色々女子力とかいうやつが高すぎると思う。
「髪ももう何度もブリーチしてるから、ほっとくとすげぇことになんの」
「へー……」
「由人は染めた事とかなさそうだよな。すげーきれいな黒髪」
「染めたことはないけど、冬吾の方がきれいな髪だと思う」
「俺はそれなりにケアしてるからなー」
興味深そうに俺の髪を触っていた手が何だか不穏な動きをしはじめる。というかやっぱり冬吾の方がちょっと背高い。
「髪柔らかー。というか由人肌もきれいだよな。これなんもしてねぇの?」
ふにふに、ぐりぐりと俺の顔を弄る冬吾の手には悪意しか感じない。いたい。
「な、んも、してねぇよ。……つーかやめろっ」
両手を掴んでやめさせると、すごくおもしろそうに笑われた。……畜生、やっぱりかわいい。
「ごめんごめん。でもちょっとだけ乾燥気味かもな。…よし、俺に任せとけ」
とっくに歯磨きも済んでいるし疑問も解消されたので立ち去ろうとした腕を掴まれた。
「……は?」
「スキンケアは大事だぜー。肌がキレイなだけで女子にモテる」
「いや意味わかんな…」
「はい動かないでー」
ぺちん、と頬に何かがぶつけられてびっくりしていると、そのまま手際良く顔全体にぺちぺちと湿った布みたいなものが押し付けられていく。
「な、なにこれ」
「化粧水? やりづらいから喋んなってー」
「う゛っ」
ぺちぺちが終わったかと思うと、今度は直接なんだかわからない液体?クリーム?をつけた冬吾の手がべちべちと押し付けられて。痛くはないけど、ちょっとびっくりする。
最後におさえこむように顔全体を上から順に手で包まれて、やっと終わったかと思うと目の前には冬吾の凄く楽しそうな顔。
「ほら潤ったー」
「頼んでない。嬉しくない。なんか変」
確かに肌がしっとりした気はするけれど、遊ばれただけな気がしてならない。
「いやでも大切だぜ? ポイントは化粧水は肌がふっくらするまで浸透させることな」
楽しそうに笑う冬吾に内心ため息をつきつつ、この笑顔には何をされても許してしまいそうな自分に呆れた。
少し前まで手が届かない存在だった人物に、今では向こうからべたべた触られていたりするんだから……ほんと人生ってわかんないもんだよな。
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