100人が本棚に入れています
本棚に追加
episode5
「篠宮くんの、親衛隊を作りたいんだけど……」
昼休み。教室で(俺の作った)弁当を冬吾と食べていると、小柄なかわいらしい生徒が顔を真っ赤にしながら話しかけてきた。
「……しんえーたい? ……は?」
「ファンクラブみたいなもんだよ。前話したことあるだろ」
「──あぁ…って、えぇ?!」
「いやできない方がおかしいだろ。今までの状況で」
「親衛隊とか半分ネタだと思ってたわ」
「まじか」
まじまじ、と頷きながらも冬吾の関心は弁当に戻った様子。いやちょっと待って、どうすんのこの状況。
「えっと、篠宮くん?」
「んー?」
「その、親衛隊なんだけど、」
「あー…それって何すんの?」
「えっ? えーっと、藤宮くんが好きな人が集まって……まぁ、いろいろと…」
いろいろとって何だよ、と笑う冬吾の笑顔に教室に残っていたメンバー(最近は冬吾がいるからそこそこ多い)(他のクラスのやつもいるくらい)が小さくざわつく。
それにしても、冬吾のファンは普通に男っぽいのが多いのかと思ってたけど、案外こういう系からも人気があるのか。
背は高めだし女子みたいと言ってもどちらかといえば綺麗系な顔だから、各方面から需要があるのかな。
「その、ダメかな?」
小柄な生徒がおずおずといった様子で聞くと、冬吾はそれほど関心なさ気に「俺とか由人に迷惑かけないならいいよ」と言った。……は?
「なんで俺? 別に俺に迷惑はかけないだろ」
「由人、最近なんか色々されてんじゃん。ほんとそういうのうざいよなー、陰湿女子かよ」
「は? 別に何もされてないよ。何言ってんの」
本当は、最近物がなくなったり靴箱やロッカーに変なものが入れられたり、色々しているのだけれど。周りの視線も割増で痛くなってる気もするけれど。
でもどれも冬吾が悪い訳ではないし、ある程度は予想ができていたから、正直そこまで重要視はしていなかった。
ダメージが全くないわけではないけど、だからって冬吾と距離を置くことができなかったのは単純に冬吾がいいやつだから。意外と気が合うというか。
「あーもう、隠してどうすんの? というか俺友達バカにされたり傷つけられたりすんのほんと無理。イラつく」
言葉通り苛ついた様子で言う冬吾に教室が静まり返る。
何も言えないでいる俺と冬吾の間に微妙な空気が流れる中、間に立っていた小柄な彼が口を開いた。
「もちろん、篠宮くんの友達に迷惑はかけないよ。距離が近いと多少はやっかむ人もいるだろうけど、それをまとめるのも親衛隊の役割というか……それに、基本的な隊のルールは篠宮くん自身が決めてくれたのでいいし」
その言葉に、何だか少し怒った様子だった冬吾の顔がきょとんとして、そしていつもの穏やかな感じにかわった。
「おっけー。そんな感じならぜひ作ってよ親衛隊。というかほんとに俺でいいの? ここ無駄にイケメンいっぱいいんじゃん」
「いや、僕は篠宮くんがよくて」
「へー…ありがと。じゃあ改めてよろしくな。えーっと……」
「ごめんなさい、名乗ってなかったね。宮野圭です。クラスは隣で、藤宮くんと同じ1年だよ」
「ありがと。じゃあ宮野、由人共々よろしくな」
にこにこ笑う冬吾に、宮野を含めた数人がわかりやすく赤くなっている中、なんだか変な方向に話が進みそうな気がしてそわそわしてしかたなかった。
……親衛隊とか、本当は正直かかわりたくないんだけど。すごく。
最初のコメントを投稿しよう!