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episode9
「………すごい色」
「似合ってない?」
「似合ってるけど、なんでまた……」
「いや、ちゃんとした学校だって聞かされてたからとりあえずおとなしめな感じで行ったけど、…わりとみんなぶっとんでんじゃん? あそこ」
……確かにカラフルな頭の人は多いけれど。
目の前に立つ冬吾の頭は、白に近いくらいの金髪。毛先だけちらほらと淡く青だの紫だのが入っていて、これなら学園の中でもさぞかし目立つことだろう。
「いや、目立ちすぎるだろ…」
「つーか腹減った。どっかメシ行こ」
「………どこ行くの?」
「んー、知り合いがやってる店。結構美味いよ」
「へー」
冬吾を待っている間に色々と相手をしてくれた美容師さんにお礼を言って店を出る。
気づいたらもう12時過ぎで。確かにお腹も減ってきた気がする。
……というか女の子を紹介してくれるという話はいつになるのだろうか。
なんだか冬吾の頭からはすっぽり抜け落ちている気がするそれを半分諦めながらも、冬吾に連れられるままにして行き着いたのは路地裏にある何だか雰囲気のあるお店。
丁度ランチの時間だからか、店内は人で溢れていた。
「………はじめまして」
そして目の前にはなんだか見覚えのあるイケメン。
冬吾の友達? らしいから、もしかしたらこの人もモデルとかなのかもしれない。それで見覚えがあるのかも。
「はじめましてー。冬吾の学校の友達? 名前は?」
「高橋由人です」
「由人ね。俺、双海拓巳。よろしくー」
にこにこと俺の手を握る拓巳さんは多分俺達より少し年上。
成人していそうな、いなさそうな、そんな感じ。肩まで伸ばした髪を後ろで一つにくくっていて、色気があるってこういう人のことを言うんだろうな…って感じの人だった。
「つーかお前ちゃんと友達とかできたんだなー。感心感心」
「友達くらいできるわ。俺コミュ力高めだろー」
「どこがだよ。気に入らないやつにはとことん冷たいくせに」
「んなことねーし」
「わがままだし」
「どこがだよ」
「……え、自覚ないの?」
思わず口を挟むと、一瞬きょとんとしてから爆笑しはじめた拓巳さんと、一気に不機嫌そうな表情の冬吾。
「冬吾くん、言われてんぞ」
「俺、わがままじゃないし」
「どうせここにも無理やりつれてきたんだろ?」
「………………違うし」
「由人、嫌な時は嫌だってはっきり言えよー」
拓巳さんに肩を叩かれながら隣を見ると、相変わらずむくれた表情の冬吾の姿。
……嫌だって言ったって俺の言うことなんて聞いてくれるとは思えないけれど。
それに俺だって本当に嫌なことをされたことは今まで一度もなかったりもするけれど。
「というか何頼む? 本日もオススメは日替わりランチです」
「俺テール煮」
「…お前ここではそれしか食わないよな」
「好きだもん。由人は?」
「俺オススメで」
りょーかい、と厨房にオーダーを通しにいった拓巳さんは、やっぱりモデルさんでたまにこの店の手伝いをしているそうだ。冬吾が教えてくれた。
「というか女の子は?」
「……焦んなって」
適当な冬吾の返事に不満気な視線を送っていると料理が届いた。
「とりあえず食おーぜ」
いつのまにかいつもの笑顔に戻っている冬吾につられていただきますと手を合わす。たしかに凄くおいしそうだ。
運ばれてきた料理は本当に美味しくて、機会があればまた来たいとすら思った。次は冬吾が頼んでいたやつを食べてみたい。
「……次、どこ行くの?」
「靴だろ? 遅くなったけど」
「いいよもう」
「俺が嫌なの」
「…………りょーかい」
靴を買いに行って終わったら案の定もう帰らなければいけない時間で。
散々からかわれながらではあるけれど、気に入った靴も見つかったしご飯もおいしかったしなんだかんだ楽しかったけれど。…けれど。
「……女の子は?」
「また今度なー」
絶対嘘だ。
また適当な返事をする冬吾にならい俺もスマホの画面を見つめる。
「冬吾には内緒な」と冗談めかして交換した拓巳さんの連絡先を眺めながら、この人に言ってみた方が俺に彼女ができるまでの道は近づくんじゃないかとなんとなく考えた。そんなある日の日曜日だった。
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