episode,1 夜明け

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episode,1 夜明け

…… 目を開けるとそこには大空が広がっていた。いつもの日常。変わらない空、変わらぬ故郷の空気、優しく包み込んでくれる草原の草。何も変わらなかった。 呼吸が荒くなり、激しい運動でも下後であるかのようだ。 …そうだ!目、目は!? 慌てて刺された右目を瞼の上から触った。感覚も視界も何ともなかった。 …何だ、夢か。 安心している中、草を踏む音がどんどんと少女に近づいてきている。夢を見た後か、それを警戒するが、何故か力を踏ん張れず、起き上がることは出来なかった。 「そこで何をしている?」 寝っ転がったまま顔を男の声が聞こえた方に向けると、軍服を着た男が銃を持って立っていた。…何でここに軍隊が? エリンは、不思議そうに軍人を観察した。 不思議に思うのも無理はなかった。 彼女、エリン・ユグノーは、アナスタシア大陸の西にあるエラート半島の国家、エラート共和国のとある街に住む一般人だった。軍人との関わりも持ったことはないし、会ったこともない。父がそういう関係の仕事であったわけでもないのだ。 「…?」 「北エラート社会主義共和国への不法入国は認められない。軍事裁判にかけられるぞ。」 軍人は、銃口を寝っ転がったままのエリンの顔に向けて警告した。 北エラート…? 聞き間違いではなかった。 エラート半島には2つの国家が存在する。 エリンの住んでいるエラート共和国、通称南エラートはアルドア大陸の大国オードウィン連邦の力を借りて成立した共和国だ。そしてエラート共和国と対峙する北エラート社会主義共和国、通称北エラートはオードウィン連邦と犬猿の仲と呼ばれるロウラン労働者連邦国の助けを得て成立した社会主義国だった。半島の統一と支援先故か、両国は互いに争い、統一に向けて爆走する両国の仲は無論、良くなかった。 「北…エラー…ト?」 「…またか…南エラートから流されてきた保護孤児だ。南エラートの民主主義は、これだから駄目なんだ。」 銃口を突きつけられて怯えるエリンに、軍人は呆れて大きな溜め息を吐くと、胸ポケットからタバコを取り出して吸い始めた。
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