ある夏の日突然に

2/15
前へ
/49ページ
次へ
 確かに居候の俺はご主人さまにご迷惑をかけている。しかし、俺の事情は重々理解されているはずなんだ。親が突然離婚したこと、俺は一人、置いてきぼりになったこと、住んでる家が貸家で、その貸家も俺一人では家賃が払えないこと、俺はニートで、なにより金融(きんゆう)さまの世界では信用力のない男、それらの事情で、行き場のない俺は、唯一の身寄りであるご主人さまの家に、こうして居候させてもらっているわけだ。もっとも親が離婚しなくとも、歳が三十四のニートの俺は、いつも迷惑な居候のような存在でしかなかったけどな。  居候も長くなると、わかっちゃいるけど、いろいろと(あら)が見えてくるもんだ。人様の家にも関わらず不平不満のひとつも沸いて来る。ご主人さまは知的で気品があって、しかも幸運度アップの福相をしていらっしやる(これだけは俺は到底及ばない)。なのに、この家は汚いし狭いし、古びたアパートも同然の家なんだ。なぜなんだ?なんかの間違いではではないのかと思うのだ。かといって、そんな疑問を口に出すわけにもいかんし、それに、この家には一人の優秀な幼い子供がいるし、いつまでもこの家に居候し続けるなんて許されるものではない。そんなことは厚かましい俺だって重々分かっているつもりだ。昨夜、ご主人様は俺にこう仰られたんだ。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加