ある夏の日突然に

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ある夏の日突然に

 やけに日差しがまぶしい。ご主人さまが庭先で大きな口を開けて欠伸をしておられる。こんなに早く起きられるとは知らなかった。遠くで郭公(かっこう)が鳴いているではないか。きっと梅雨が明けたのだ。  居候生活が始まってこれで30日目の朝になった。こんなに長く居座るつもりはなかったんだが、ご主人様が気のよいお方なのでついつい甘えてしまっているわけだ。まあ、お育ちがよいのか、俺みたいな厚かましい奴にたじろっていらっしゃるのか、そこんところはよくはわからないが、今日もまた、こうして、ご主人様のお顔を拝まさせて頂けると思うと嬉しくって涙が出てしまうというわけだ。  だが、気になる点もあるんだ。ご主人様は他人の前では滅多には笑わないとは聞いてはいたが、この俺の笑い顔を見るたびに目尻をだらしなく下げて、にんやりと笑う。これが実に気味が悪くてならない。この俺の作り笑い顔がそんなに面白いのか?そんなわけはなかろうに。こんな懶惰なニートの俺をご主人さまは軽蔑し、それをにんやりで誤魔化しておられるに決まっているんだ。しかしなあ、理由がどうであれ、そもそも居候には本質的に負い目があるというもんだ。だからといって、周囲に媚びてばかりはいられはしない。そうなりゃ気も滅入るし陰気臭くにもなってしまう、結果、この家の空気を悪くしてしまうではないか、だから、俺は軽蔑されるのを覚悟してまで無理して笑い顔を作っているのだ。鏡を見ながら日替わりのようにな。  
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