17人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
廊下の向こうから、人影が近づいてくる。エレナだ。
その隣を、見知らぬ少年が仲良さそうに歩いてくる。
「リディア! 大丈夫だった? 怒られちゃった?」
「――まぁ、ちょっとね!」」
しかし、近づくとその少年が決して見知らぬ少年ではないことにリディアは気づいた。
それは、あの少年だったのだ。
風呂に入り、髪を洗い、食事をとり、身なりを整えたのだろう。
それで随分と雰囲気は変わった。
「――君、その格好は……」
「うるさいよ! 俺だってこんな腐れ貴族みたいな格好したくないんだ!」
「こらっ! テイト!」
名をテイトと言うらしい。少年はエレナに怒られてびくっと肩を震わせた。
そして拗ねたような表情で彼女を見上げる。どうやらエレナには懐いているらしい。
その少年の肩にエレナは両手を下ろした。
「今回の事件に巻き込んでしまったお詫びもあるし、身よりも無いみたいだし、しばらくテイトのことは王城で面倒を見ようと思うの。だから仲良くしてね、リディア」
「……よろしくな」
少年は渋々と言ったようにリディアのことを見上げてくる。
「よ……よろしくな。少年」
リディアは右手を差しだす。
テイトはその手を取り、「よ……よろしく」と握手で返した。
その顔を見ると、どうしても一昨日の戦闘を思い出してしまう。
狂人化していたせいとはいえ、この少年に自分は敵わなかったのだ。
ある意味で好敵手だった。
そして今も服の下に残る左肩の傷跡は、この少年につけられたのだ。
もしかしたら、この少年は素質があるのかもしれない。
そんなことを考えながらリディアは右手にありったけの握力を込めた。
「痛い……痛い! お姉さん痛いよ!」
「ふっふっふ! テイトくん! 城にいることになったからには、お姉さんが徹底的に鍛えてやるからな! 覚悟しておけ!」
「えええ! 俺、別に剣士になるつもりなんて無いから!」
「ただ飯を食うやつは、王城には要らないのだ~!」
そんな二人をエレナとリハルテは、微笑ましく眺めるのだった。
斯くして白磁の聖鎧を纏う姫騎士リディア・ルクシフォードの近衛騎士としての戦いの日々は始まる。これからまた王家を狙う呪術師集団や神の塔を狙う隣国との戦いなど様々な苦難が彼女とその周囲を襲うことになるが、それはまた別の話ということにしておこう
< 白磁の聖鎧は貴女を守るために 〜姫騎士リディア・ルクシフォードの事件簿〜 完 >
最初のコメントを投稿しよう!