近衛騎士選考会

1/8
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ

近衛騎士選考会

 王都ラクシュタインの東側には天空へと続く無限に高い神の塔(ソラリス)がそびえる。その手前にはこの国――フローレンス王国の統治を行う場所であり、王族が住まう王城が鎮座している。  初夏の日差しが青空から射しこみ、広場の温度を上げていた。しかし、本当にその空間を熱くしていたのは、太陽の光ではなく、そこに集まった人々の熱気だった。  貴族や役人、そして関係者である正規兵達の視線が広場中央へと注がれている。 「棄権したっていいんだぜ、お嬢さん。そもそも女性が王女の近衛騎士団に志願しようって方が常識外れなんだ。俺だってこの槍を――女子供に向けたくはないのさ!」  王国の騎士ルーク・ブリザークは左手に小振りの盾を構えつつ、右手に背丈ほどもある槍を構える。  フローレンス王国では槍術を扱う者は少ない。騎士としての正装で身につけるのはもちろん長剣である。ルークとて剣の扱いが苦手というわけではない。しかし、自分が本当の力を発揮する武器は槍だという自負があった。  今日の決戦においては、得物は自由に選んで良いことになっていた。だから彼は槍を選んだのだ。  故郷で磨いた槍術。死んだ兄と鍛えあった日々。決して順風満帆な出世街道ではなかった。王国の辺境に生まれ、庶民階級ではなかったものの貴族の中では最下層とも言える爵位も無い家柄だった。今、王女の近衛騎士を選ぶ選考の最終決戦の場に立てていること自体も、十年前から考えれば奇跡とも言える状況なのだ。だから、このチャンスを逃す気は毛頭ない。手を抜こうなんて思ってもいなかった。  しかし、その最終決戦で相対することになるのが、うら若い十代の娘だとは、もっと思っていなかった。  この非現実的状況にどう向き合って良いか分からないままにルーク・ブリザークは槍の柄を握る。目の前の黄金の髪の少女にどう向き合って良いのか分からないままに―― 「あら、どうして? 貴方の武勇伝は聞いておりますわ。そんな貴方と心置きなく剣を交える機会がこうしてありますのに、どうして棄権だなんて選択肢がありますでしょうか?」 「――どうなっても知らないぞ?」 「その言葉、そっくりお返ししますわ……」  妖艶に目を細める少女。決して分厚くはない簡易な皮製の鎧。胸当てと肩当て。そして腰回りの防具。右手に細い長剣をぶら下げて、左手には盾すら身に着けていない。その軽装とも言えるその姿は、まだ少女といっても構わない彼女の姿を闘技場の中央で際立たせていた。無骨で粗野な振る舞いが似合う砂埃舞う広場で、むしろ美しくて静謐だった。  ルーク・ブリザークは口元に戸惑いを浮かべながら槍を構える。直上からの太陽の光が槍の先端に反射して煌めく。その一線上に白くて細くて美しい少女が、一切無駄を感じさせない軌道で剣先を上げる。 (どうしてこうなった?)
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!