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あの雨の日以来私は中島の顔をまともに見ることができなくなった。
ミカにも『アンタたち何かあったの?』といわれるくらいだからきっと中島だって私の様子がおかしいことに気付いてるだろう。でも中島の声が聞こえてきた時点でもうそっちの方向を見ることができない。だけど私にもどうしてこんなことになってしまったのかわからない。いや、きっと本当はわかっていた。だけどそれをどこかで認めたくないと思っている自分がいて、今中島と向き合ったらきっとボロが出る、それが怖いんだ。
中島と話をしなくなって数日後の放課後、私は中島が部活に行ったのを確認してから教室を出た。
なるべく1人にならないようにしてたんだけど、この日だけは友達も部活や委員会でつかまらず、いつもよりも周りを念入りにチェックしたつもりだった。だから階段手前の踊り場で私の名前を呼ぶ中島の声が聞こえてきたときはきっと間抜けな顔をして振り向いてしまったんだと思う。
「佐藤」
ずいぶん久しぶりに見た中島の顔は明らかに怒っていた。怒っているというか、何かに対して釈然としないという表情。もっともその何かとは私だ。原因は私。わかってる。
「なんで最近俺のこと避けてんの。俺なんか悪いことした?」
「別に、何もないよ。ごめん、ちょっと今日急いでるから」
「待てって」
ほら、腕をつかまれただけで私の顔がだんだん赤くなっていくのがわかる。私は夢中で中島の腕を振り払い、髪で顔が見えないように下を向いた。お願い中島、私のほうを見ないで。
「…もういいよ」
吐き捨てるような声が聞こえて数秒後、顔を上げると遠ざかる中島の後ろ姿が見えた。背中に苛立ちが見えたのはきっと気のせいじゃない。
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