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◆◇◆
姉がヒーローをやめたのは中学三年生。まだおれがいじめなんてものを知らなかった時。
いつも会うたびにしつこく言っていた「あたしはヒーロー」という言葉。
中学三年生の始業式から家に帰ってきた時、その言葉は別のものへと変容した。
「ヒーローなんていない」
その時は「やっと自覚したのか」と納得したのと、「嘘つき」と裏切られた気持ちになったのを覚えている。
あの頃に掲げていた希望も理想も、おれたちにみせていた夢も結局はその程度だったんだ。と、感じたのだ。
中学に入って、笑われ、現実を見て、自分が恥ずかしくなったんだ。
弱虫め。嘘つきめ。
その後から姉はただの人に成り下がった。へらへらと日々を過ごすようになった。むしろ前より無気力になった。
無意味に学校に行かなくなってサボったり、勉強をやらなくなったり。
生きた屍だ。
へらへら、へらへら。意志のない笑顔をつくるだけで、見上げることもしなくなった。
ああ、でも、問題はその後だ。
姉は迷惑極まりない遺物をおれに残したのだ。
「ヒーローを目指していた頭のおかしい奴の弟」
どうやら中学でもヒーロー活動をしていた姉は悪目立ちし過ぎたらしい。
その称号が、中学に入学した時からおれを苦しめた。
見事に弱虫なおれはいじめのターゲットにされたのだ。
おれ自身は何もしていないのに。
姉がヒーローなんてものに目指さなければこんなことにはならなかった。
おれは姉が憎い。
今の苦しみは姉がつくったものだから。
「……行ってきます」
また今日が始まる。
震える気持ちを抑えて、吐き出しそうになる思いを抑えて玄関のドアノブを回す。
「行ってらっしゃーい」
聞こえてくるは憎い姉の声。ヒーローではなく、普通の女子高生になり下がって呑気に暮らしている嫌な奴。
消えてしまえばいいのにと心の中で呟いて、おれは外に出た。
早く一日が終わってしまえ。
今日も鎖に繋がれて、鳥は空を飛べない。
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