プロローグ

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プロローグ

 名前もないある町にね、言花の猫(ことはなのねこ)っていう猫さんがいたの。  猫さんはね、誰かの想いが詰まった言葉の種を届けにいくの。  悲しいことや、嬉しいこと。些細な願いや、溢れる愛。一つ一つの想いがその言葉の種には息づいて、芽吹くのを待っている。  そしてね、長い旅を得て、猫さんはその言葉の種を必要としている人に届けるの。  すると、言葉の種は美しい言の花を咲かせるの。  その言の花はね、どれ一つ同じものはないの。  勇気の花、愛の花、絆の花、過去や未来の花まであるの。  その言葉の種に込める想いによって、咲かせる花は色も形も意味も変わっていくんだ。  ねえ、言花の猫さん。  今日はどんな言葉の種を届けるの?  ……ねえ、詩音。  あなたはどんな言の花を咲かせるの?  たまに夢に見る誰かの言葉。あったかくて優しい言葉。  だけど、同時に息ができないんじゃないかってくらい苦しくなる。苦しくなると視界がぼやけて、声がかすれて、言葉が消えていく。  消えて、そして、私は朝を迎える。  夢から覚めると全部忘れてて、残るのは喪失感だけ。  私はその喪失感にすこし安堵してカーテンを開く。  いつもの何でもない日々が始まるのだ。
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