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室長は、横になったまま片方の肘をつき、その上に頭を乗せていた。ちなみに、ちゃんとパジャマを着ていらっしゃる。
前髪が軽く額にかかっていて、隙がある様子が、いつも以上に女性に受けそうだ。
「君が『一人じゃ怖くて眠れない』って言うから、付き合ってあげたのに」
昨日のことを少しずつ思い出してきた。
「だ、だって、怖い話ばっかりするんだもん」
昨日の夜、この人はとても優しかった。
落ち着くようにとハチミツ入りのホットミルクをつくってくれて、シャワーと洗濯機も使わせてくれて、親切にも着替えのTシャツとパジャマのズボンまで貸してくれた。上も下もぶかぶかだけど、今も着させてもらっている。
そこまでは、いい。感謝の気持ちしかない。でも──。
『そういえば、昔聞いた話なんだけどね──』昨日の夜の声がよみがえる。
いざ寝る段になった時、客用の部屋に案内しながら、何げない調子で「壁の中から音がした話」だの、「高層階の窓の外側に手形がべったりついていた話」だの、「寝ている間に足を引っ張られた話」だのを聞かせるなんて、ひどすぎる。
おかげで一人になるのがどうしても怖くなって、結局、この広いベッドの端っこに寝かせてもらう破目になったんだった。
明らかに一人暮らしなのに、どうしてこんなに広いマンションに住んでいて、しかもベッドがダブルサイズなのかは謎だけど。
「大変だったね」
他人事みたいに言わないでほしい。誰のせいだと思っているんですか。
そして、こんなに近くで、そんな風に微笑むのはやめてください。吸い込まれて、うっかり間違いが起きてしまいそうです。
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