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終わった──。
へとへとではあるけれど、気分は爽快だ。転びもしなかったし、ちゃんと時間内に原稿どおりに説明できた。質疑応答も、ミスというほどのミスはなかったと思う。
結果がどうなるか心配ではあるけれど、このところの努力の結晶をちゃんと相手に見せることができたわけで、やり遂げた感がある。
──今日は、バナナパフェを食べよう。
プレゼンを行った会議室を出た時、そう心に決めた。今日という日において、これ以上の選択はない。
課長と白石さんのあとについてお役所の一階ロビーを歩きながら、心の中で「ばーなな、ばなな、ばななパフェ~♪」と歌っていると、高倉課長が「まあ、よくできたと思うよ」と言った。
「そうですか?」
「うん。お前、意外と本番に強いなあ」
「そうですか!」
思わず、声に力がこもってしまった。
「バナナの皮も落ちてなかったですしねえ」
真顔で言った白石さんに、高倉課長は「そうですね」と真顔で同意してから、春菜の方に向き直った。
「まあ、取りあえず今日はゆっくり寝ろ。バナナパフェでも食って」
「は?」
確かに、今日はバナナパフェを食べようと思っている。でも、なんでそのことを──。
「課長が知ってるんですか?」
「さっき歌ってたじゃないか、エレベーターの中で。ばーなな、ばなな、ばななパフェ~♪って」
目が点になった。
「歌ってましたね」と白石さんがうなずいた。心の中だけで歌っていたはずなのに、何ということでしょう。わたしとしたことが大失敗である。
「バナナ、いいですよねえ。わたしは、黄色の中で、バナナの色が一番好きなんですよ──」
白石さんがバナナの黄色の魅力について、うっとりと語り始めた。この人も相当変わった人だ。
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