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くくっ。
隣の隣の隣の席から、笑いが聞こえたような気がしたが、これはさすがに被害妄想だろう。
しばらくして、謎の人物が立ち上がった。春菜は反射的に顔を伏せた。
ひたすら、目の前の赤くてかわいいいちごを見つめる。だって、目が合ったら気まずいじゃないですか。テーブルの上に載っているのは、あなたが食べていたのと同じパンケーキです。ええ、トッピングまで同じです。でも、真似っこしたんじゃないですからね。本当ですからね。
斜め下に視線を固定し、やり過ごそうとしていたら、いかにも手入れがよさそうな靴が目の前を通り過ぎていった。
相手を知るには靴を見ろ。そう教えてくれたのは、高倉課長だったような気がするけれど、目の前を通ったこの人の靴は、どこまでもそつがなくて、いっそ嫌味なくらいだ。
「ごちそうさまでした」
低めの声がサチエさんに告げた。声までいいとは嫌味にも程がある。
レジでのやり取りに続いて、からん、と小さな音がした。冷たい空気を感じて顔を上げた時には、彼の姿はドアの外に消えていた。
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