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「何社くらい来てると思います?」
プレゼンの会場に向かいながら、高倉課長に尋ねてみたら「多くて四社ってとこだな」とあっさりした答えが返ってきた。
「何で分かるんですか?」
「何で分からないんだ?」口調が呆れている。「プレゼンは、提案書の提出順だって募集要項に書いてあっただろ? うちが提案書を持ち込んだ時間と、今日のプレゼン開始時刻で大体分かるじゃないか」
言われてみれば、そうだ。課長は「ですよねえ」と、反対側を歩く白石さんに同意を求めた。
春菜に対する態度とずいぶん違う気がしてちょっとだけ「むむむ」と思うが、白石さんはデザイナー兼クリエイティブ部門のディレクターさんなので、気を遣って当たり前の相手だと思い直した。白石さんが華奢でキレイな人なのは関係ない──ということにしておく。
春菜は、再び口を開いた。
「あの、プレゼンの持ち時間が二十分って、短すぎません?」
「全然。中には十分なんてのもあるからな。だらだら上から下まで説明すればいいってもんじゃない。短時間で、どんだけポイントを伝えられるかが大事なんだよ。相手もこっちも暇じゃないんだし」
目的の建物のエントランスを抜けながら、高倉課長はきっぱり言った。案内表示に目を遣ることもなく、慣れた足取りで高層階用のエレベーターに向かう。さすが、官公庁担当が長いだけある。
高倉課長は上矢印を押してから、春菜に向き直った。
「小鳥遊、今日は妙にしゃべるなあ。もしかして緊張してんのか?」
春菜は口元を引き結んだ。さすが上司、どうやら分かっているらしい。
「ちゃんと練習してきただろ? 原稿もあんだろ? 大丈夫だから、安心して話せ。いつものお前でいいから」
「いつもの?」
眉根を寄せている春菜に向かって言う。
「のほほーんとした感じで、ふわーんと話せばいいんだよ」
「のほほーんともふわーんともしてません」
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