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春菜の抗議をさくっと無視して、高倉課長は続けた。
「カッコつけようなんて思うなよ。失敗ってのは、いいとこ見せようとした時にするもんだからな」
「いいとこ見せようなんて思ってません。けど──」
「けど?」
「わたしの説明が悪くて落ちたら──」
ふにゃっとした言い方になってしまった。確かに担当者はわたしだけれど、この企画には、営業部門もクリエイティブ部門も、たくさんの人がかかわっている。「失敗しました」じゃ済まない。
「大丈夫だって。落ちたら、そりゃ、説明のせいじゃない。提案自体が悪かったってことだ」
言ってから、課長は白石さんの方を振り向き「すみません、今回のデザインが悪いって言ってる訳じゃないですから」と爽やかな笑顔を見せた。課長のこの笑顔は、相手が美人だからなのか、やり手のディレクターだからなのか。もしかしたら両方かもしれない。
「──そうでしょうか」
不安が声に出てしまう。高倉課長の目が、ふっと緩んで優しくなった。毒舌気味のクマ上司だが、たまにこういう表情を見せるので、憎めない。
「小鳥遊、お前、役所のプレゼンって初めてだよな」
「はい」
──というか、プレゼン自体が初めてです。メーンで企画を担当するのも。
今さらながらにプレッシャーが押し寄せてきた。
確かに、課長や丸井先輩を相手に何度も練習したけれど、本当に大丈夫なんだろうか。わたしより課長がしゃべる方がいいんじゃないか。原稿を持つ手が震えたら、どうしよう。どこを読んでいるか分からなくなったら、どうしよう。
高倉課長がにやりと笑った。
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