FACT 01

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「そんなに目をウルウルさせなくてもいいって。いいか、例えば、お前がバナナの皮で滑って転んだとしても、採用不採用には、ほぼ影響ない」 「は?」  思わず、低い声が出てしまった。  白石さんが「バナナ」とつぶやき、小声で「2014年のイグ・ノーベル賞は秀逸でしたねえ」と言った。この人はこの人で変わった人なのかもしれないという疑いが、ちょっとだけ頭をもたげた。  高倉課長は、妙なコメントには気がつかないふりで続けた。 「コンペって競争のことだろ? 何の競争か分かるか?」 「企画です」  高倉課長がニヤリとした。 「正確には『提案』だ。うちの社が何ができるかって提案。提案書、事前に出しただろ? 向こうだって少しでもいい案を採りたいんだよ。だから、事前に読んでるし、不明点は質疑応答できっちり確認される」 「そうなんですか?」 「逆に言えばな、その場でどんなにうまく演説をぶっても、提案自体が悪けりゃ落ちる。ポイントと利点は分かりやすく説明しろ。でも、過剰にアピールする必要はない。アドリブも必要ない」  高倉課長は、にっと笑ってつけ加えた。 「まあ、本当にバナナで滑って転んだら『まともな担当に替えてくれ』とは言われるだろうけどな」 「大丈夫、バナナは白ネギほど滑りませんから」と、白石さんがよく分からない言葉をかけてくれた。斜め上過ぎてよく分からないが、きっと落ち着かせようとしてくれているのだろうと理解する。  エレベーターが到着し、ドアが開いた。 「ほら、乗れよ。勝つぞ。質疑応答は俺がフォローしてやる。安心して行け」
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