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「小鳥遊って、いかにも小鳥遊って感じだよなあ」
「どういう意味ですか」
「だって、あれだろ? 小鳥遊って名字はさ、鷹がいなくて小鳥が遊んでるから、タカナシって読むんだろ? ぴよぴよと」
失礼きわまりない。むむっと口を引き結んだら、また笑われた。
昼休みのオフィスは、人がまばらだ。営業部に残っているのは、お弁当組と、昼休みまで働いている気の毒組の皆様だけだ。気の毒組代表の高倉課長に向かって、お弁当組の丸井先輩が大きな目をくるくるさせた。
「企画室長、どうでした? 何かおっしゃってました?」
春菜は背筋を伸ばした。企画室長に課長が呼ばれた理由──。そうだった、ホットチョコレートの話をしている場合じゃなかった。
高倉課長は、手に持った水色のフラットファイルをちらっと見た。背表紙に「p-project」と鉛筆で走り書きされている。
「コンセプトはOK取れた。室長から一つオーダーがあって、原価を抑え過ぎるなってことだ」
「おお」と丸井先輩が声を上げた。
「ええと、それってつまり、お金をかけていいってことですか?」
春菜が確認すると、高倉課長がうなずいた。
「原価割れしないギリギリまでクオリティを上げろってさ。今回に関しては、俺もそれがいいと思う」
丸井先輩が横から「なるほど」と納得した声を出した。「儲けなくていいから、確実にとれってことですね。確かに、役所系の海外展示会って、ウチで受けたことないし」
高倉課長が深くうなずいた。今回のコンペの主催者は、地元の自治体。内容は、海外の展示会でのプロモーションだ。うちは広告代理店で、企業の海外プロモーションの受注はあるけれど、残念ながら、自治体の海外向け事業の実績は乏しい。
「役所系は実績がモノを言うからな。コンペに勝ってきっちりやり遂げれば、他の自治体の仕事もついてくる。ケチるな、次への投資だと思って、思い切ってやれってさ」
なるほど。
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