約束

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前日の天気予報では雨だったのに、直前に雨が止んで、奇跡的に雲が晴れた。 僕は夕飯のハンバーグを水で流し込んで急いで家を出た。予定時刻が、あと10分に迫っていた。 街で一番の高台へ急ぐ。いつも使っているはずの自転車の進みが遅く感じる。 最後はもう何がなんだかわからなくて、芝生に自転車と倒れ込んだ。 息が苦しくて、身体全体で呼吸しながら上を向いた。 真上に広がったのは一面の流星群。 芝生に染み込んだ水分が背中に染みて来ているのを感じたけど、そんなのもうどうでもよかった。 もう家から出ることの出来なくなってしまった君は、星空が大好きだった。 夜になると、いつも窓から空を見上げていた。 今日の朝、「もうそろそろかもしれないから、夜は一緒にいてやりなさい。」と言われた。 君はもう寝ているのかと思うくらい、呼吸は浅く、目も閉じかけていて、 背中を触って感じる温かさが君の存在を唯一証明してくれていた。 最後にたくさんの思い出を語った。 君は穏やかな顔で、ゆっくりと尻尾を降ったのを最後に冷たくなった。 10年前。僕がまだ小学1年生だった頃、流星群が見られると聞いて2人で家を出た。 君を前のカゴに乗せてあの坂を登るのは本当に大変で、結局自転車を道に置いて、君を抱えて高台まで登った。 まだ幼かった僕はその分時間がかかることにも気づかなくて、 到着した時にはもう、流星群は雲に隠れてしまっていた。 あの時約束したんだ。 「また絶対、2人で見ような。」 君は一緒に来てくれただろうか。 そんなことより遊ぼうよ、と言うだろうか。 いつの間にか流星群は涙で滲んで見えなくなって、 それに気づいて声を上げて泣いた。 背中はびっしょりと濡れて、流星群の流れ終えた空がまた雲に覆われた頃、 どこかで「ニャア」と声がした。 最低限の街灯しかない高台では、その姿は捉えられない。 でも僕にはわかった。 君は黒猫だから、こんなところじゃ見つけられないや。 思わず笑みが溢れる。そんないたずらっ子なところも大好きだった。 「ありがとう。またな。」 星空が大好きだった君は、星と共に旅立っていった。
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