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美影
僕が彼女と初めて出会ったのは、コンビニで電池を買ってきた帰り道のことだった。長かった夏が終わろうとしている。その日に限って、目覚まし時計の電池が切れてしまった。母親に電池の在庫を訪ねると、あいにく切らしているとのこと。携帯電話のアラームで起きられない僕には致命的な事態だった。
満月ではないが月明かりの綺麗な夜だった。外灯の少ない小さな公園を歩いている時、自分の影がくっきり見えるくらいに。
いや、くっきりし過ぎていた。
地面に映る僕の影が、やけに真っ黒で、大きくて、変だなと思った時には、その影が動き始めていて、僕の目の前に立ち上がった。姿見鏡の中の僕を墨で塗りつぶしたみたいな、僕そっくりの形の影が――笑った。
(何だ、こいつは!?)
身体が動かなくなった。反対に、影はゆらゆらと形を変える。僕はごくりと唾を飲み込んだ。何が起ころうとしているのか?
この不思議な現象に僕の脳味噌がパンク寸前になった時、影は縦に真っ二つになった。
「えっ!?」
霧散するように消えていく影。
その奥に、彼女がいた。
抜き身の日本刀を持ち、スラッとした身体は黒のスーツで包まれている。腰には刀の鞘と、何故か瓢箪(ひょうたん)がぶら下がっていた。長い黒髪は、頭の高い位置でポニーテール。淡い月明かりの中、凛とした顔の頬は、ほんのり桃色に染まっていた。
「……」
一瞬で僕は彼女に、惚れた――
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