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5/9 マユ  今日、華さんに当番を押し付けられちゃった。バレエのレッスンがあるんですって。今度埋め合わせするからっていうけど、あの人が埋め合わせてくれたこと、一回もないわ。  二言目には、バレエバレエなんていうけど、踊りが上手いと思えないのよね。体育のダンスだって、「発表会が近いから」なんて言って見学してたのよ。そこまで熱心なら、何らかの賞を獲るぐらいの実力があると思うんだけど……  華さんが表彰されているところ、入学してから一度も見たことないわ。一度もよ!  本当にバレエのレッスンなのか気になって、正門まで後をつけてみたの。でも、向こうの方が一枚上手ね。昇降口に着いたら、親友のテディさん(熊のつく苗字だから、テディベアってことね)に通せんぼさせたのよ!  華さんをつけ回す不審者がいるかと思った、なんて白々しく言って!  テディさん、美人の華さんを守ることで自分が騎士にでもなったつもりなんだわ。そのくせ、当番だとか先生からの頼まれごとは引き受けないで、他人に任せるのよ。  自分は騎士であって、小間使いになんかならないってことかしら!  これが本当に、見目麗しい2人だったら、わたしだって喜んで小間使いしてあげるけど…… 5/11 ミキ  華さんとテディさんは、姫と騎士っぽく振る舞っているけど、社長、ううん、課長と補佐って感じよね。でも、実際の課長と補佐の方が、ちゃんとお仕事している分、偉いと思うわ。学校の中の課長と補佐は、全然、仕事しないもの。  わたしのクラスには、3人の魔女がいるかな。わたしは、それぞれの頭文字を取ってMIEて呼んでいるわ。ミエ、じゃなくって、ミー。身勝手のミから来ているの。  この3人は、そうね、華さんよりも美人でスタイルがいいわ。制服だって、校則違反にならないように着こなしているし、持ち物だってセンスがいいの。ハンカチひとつ、ペンの一本だって洗練されてて、見ているだけでうっとりしちゃう。  でも、わたしはMIEとそんなに仲良くないから、遠くから見ているだけ。一度、勇気を振り絞って『見せて』と頼んだことがあったのだけど、MIEたちは口では「どうぞ」と何でもないように言ってくれたけど、わたしがペンを持っている間中、じぃーっと見ているの。わたし、てっきり落とされないか不安なのかと思ったけど、違ったわ。 「目を離したら、隠されるかと思った」 「恨めしそうに見ていたものね」 「買えないのをひがんでいそう」  わたしがいないと思ったのか、MIE達は大きな声で本音を言っていたわ。  ひどいわよね。わたしはただ、素敵なものを間近で見たかっただけなのに。  これだけじゃないの。  Tちゃんって子が、誕生日プレゼントにハンカチを買ってもらったの。アルファベットを装飾体にしたロゴの、ヨーロッパブランドの素敵な柄よ。  MIEの内、Iがそのハンカチをひょいっと取り上げて、MとEへ渡したの。断りもなく、他人の持ち物を取り上げるだけでも非常識じゃない?  そして、MとEは、Tちゃんのハンカチを見て吹き出したわ。唾がハンカチに掛かるんじゃないかってぐらい、下品にね。そして、ゲラゲラ笑い転げたの。  Tちゃんのハンカチは、ニセモノだ。パチモンだ。騙されて買わされたんだって。  ロゴの刺繍が雑だの、生地が安っぽいだの、他人様のハンカチをいじり回していたわ。そして、MIE達は何度も何度も、ハンカチのブランドロゴを乱暴にいじったわ。そんなことしたら、刺繍がほつれるのは当然なのに、MIE達は「ほら、やっぱり偽物だ」て笑うのよ。  先生もね、MIE達は注意しないで、泣いているTちゃんに「泣き止みなさい」しか言わないの。 5/15 アサミ  交換日記、なかなか出せなくってごめんなさいね。  ミキちゃんとマユちゃんとこのTちゃんの身に起こったことを読んでいたら、我が事のように腹立たしくなりました。  連休が終わってすぐの小テストについて、改めて2人にお礼を言わせてください。  あの日の朝、ペンケースが隠されてしまったのです。わたしもまさか、机に置いただけのものを、堂々と隠されるなんて思っていませんでした。  あの時、駆け込んだわたしに快く予備のペンと消しゴムを貸してくれて、ありがとうございます。  それから、その後の片付けも、手伝ってくれてありがとうございます。昇降口の下駄箱を開けたら、大量のゴミと共にペンケースが詰め込まれていたのには驚きましたね。おそらく、どこかのクラスのゴミ箱の中身を、そのまま詰め込んだのでしょう。  水気がなかったのは、不幸中の幸いでした。そして、ミキちゃんとマユちゃんが手伝ってくれたことも。   通りがかった先生に 「遊んで汚すんじゃない」  なんて、トンチンカンなことを言われたとき、真っ先に抗議してくれたマユちゃん。  丁寧に靴の汚れまで落としてくれた上に、面白半分に眺める子を一喝してくれたミキちゃん。  あなた達がいなかったら、わたしはきっと、泣きながら一人で掃除していたことでしょう。2人がいてくれたから、同じように怒って泣いてくれたから、わたしはあの日を乗り越えられました。  言葉だけになってしまうけど、本当に、ありがとう。
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