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5/17 ミキ  アサミちゃん、学年1位おめでとう!  連休明けのテスト、自分の順位よりも、アサミちゃんが1番だったことの方が、すごく嬉しい。  わたしのクラスなんて、せいぜいがサボりぐらいだけど、アサミちゃんが1番大変だものね。でも、それにもめげないアサミちゃんは、すごいと思います。  ああでも、今日も書かせて! 今日はね、華さんと対抗している米さんのこと!  米さんは、お父さんがアメリカ人でお母さんはこの学校の卒業生なの。華さんがやたらとバレエバレエっていうなら、米さんはやたらとアメリカアメリカっていう感じよ。  アメリカの常識やしきたりはよくご存じでも、日本のことにおいては世間知らずを通り越して、非常識ね! 「夏休みはバカンスに行くもので、クリスマスはパパとママと一緒に過ごすものでしょう?」 「お父さんがいないの? 離婚? どうして別れちゃったの? あなたがいるのに」 「聞いたことないブランドだけど、そんな安物ですぐ壊れちゃわない?」 「習い事を何もさせないなんて、そんなのありえるの?」 「お庭がない家なんて、味気ないわね」  わざわざ自分で聞いておいて、わたしが「うん」と頷くと、すっっっごく嫌な顔で笑うの。いやらしいって、ああいう表情のこと言うんだわ。  米さんは、わざわざ自分からわたしに話しかけてくるの。彼女、声楽やっているから、クラス中に響くのよね。 「知らない世界を知れて面白い」  なんて、失礼なこと言うのよ。  先生も 「米さんは天然だからなあ」  なんて、呑気に笑うの。 5/20 マユ  ミキちゃんとこの米さん、わたしのクラスにも聞こえてくるわ。そして、うちのMIE達もそれに便乗してるの。  同じ声楽クラブのLちゃんが犠牲になってた。 「米さんの声がうるさいから、綺麗な歌声で上書きしましょうよ」 「そうね。米さんより大きな声を出して、聞こえなくさせよう」 「今の季節なら、この曲がいいわよね」  わたしも、Lちゃんと一緒に歌わされる羽目になったの。ほら、わたしも地声が結構大きいじゃない? 普段は気を付けているけど。  それに、Lちゃん独りをさらしものにするなんて、やっぱり嫌だったから、歌ったわ。  でも、やるんじゃなかった。  わたし、音痴なのよ。歌っている間中、クラスのみんなが笑いをこらえるように肩を震わせているの。わたしをチラチラ見て、顔をそらしてぶるぶる震えて。  Lちゃんも、笑いをこらえてた。でも、歌いながら笑いを堪えるから、彼女の声も変に調子が外れてきて……Lちゃんが笑ったら、みんないっせいに大笑い。 「やだ~最高だわ~」 「いいえ、最低よ! こんなひっどい音痴、実在するのねえ!」 「これは我が校の音楽の授業でも矯正できないわあ!」  MIEたちもゲラゲラ笑って、でも、わたしが歌を止めることは許さなかった。止めるとね、さもわたしがサボったみたいに責め立てるのよ。  先生が注意しに来ても、MIE達の 「音痴を治してあげようとしたんでーす」  なんてふざけた言い分を信じたわ。挙句の果てに、わたしに向かって、 「あー、えーっと、もっとがんばりなさい」  投げやりなこと言って、いなくなったの。先生がいなくなったら、みんな大爆笑。Lちゃんも一緒になって笑ってたわ。  アサミちゃんに習って、わたしもお礼を言うね。  あの日、わたしを慰めてくれてありがとう。わたしったら、いっぱい泣いちゃって、うるさかったでしょう? でも、2人はそんなわたしに嫌な顔せず、ずっとついててくれた。  この前、アサミちゃんが書いてたように、一緒に怒ってくれる友達がいるって、すごくいいことだと思った。だって次の日、2人に会えるんだって思ったら、なんとか学校に行こうと思えたもん。  それから、アサミちゃんが拾ってきたリューゲルのことも、賛成です。  すっごく素敵な思いつきだと思うな。 5/22 アサミ  マユちゃん ミキちゃん リューゲルのこと、賛成してくれてありがとう。少し、いいえ、とてもほっとしました。  あれから、いくつか本を読んで調べてみたんだけど、リューゲルについて分かっていることはとても少ないの。ネットにも情報がないみたいだから、本当に珍しい生き物なのね。  分かったのは、リューゲルは龍に似ているけど、龍のように大きくならないということ。  体を覆っている毛皮は、光の加減で何色にも見えるそうです。2人にリューゲルを見せたのは、夕日が差し込む教室で、マユちゃんは逆行、ミキちゃんは陰になっていたから、それぞれ、違う色に見えたんでしょうね。  ほんの少しの水と食べ物で生きられるそうです。虫は食べないみたいだから、その点でも安心ですね。  甘い物も好きみたいですが、嗜好品というぐらいだし、虫歯にもなってしまうから、たまにあげるくらいがいいでしょう。  隠し場所に掃除ロッカーを思いついたのは、いいことだと思います。当番をよく押し付けられるわたし達しか、さわりませんものね。  誰にも見つからないように、リューゲルを育てましょう。  お世話をしていくうちに分かってくる事もあるでしょうから、新しいことが分かったら、書いてもらえると嬉しいです。 5/25 マユ  学級委員の雪さんの提案で、クラスの掃除当番はわたしで固定されちゃった。 「わたしがやっても、埃が残っちゃって、却って恥ずかしくなるくらい」 「マユさんがやると、他の誰よりもきれいな教室になるのよね」 「本当。いつでも完璧に、きっちり清潔になるわ」 「手入れが行き届いてて、感心しちゃう」  なんて、見え見えのお世辞。とにかく褒めまくったら、わたしが喜んで引き受けると思ったのかな? 同級生に向ける言葉じゃないわよね。なのに、先生も褒めてたからっていうんで、わたしがほぼ毎日掃除当番することになったの。  だけど、好都合よね。  リューゲルって、基本的に大人しいわよね。お腹が空いても鳴かないの。でも、わたしがロッカーを開けると、「きゅーん」て鳴いたわ。その声がね、すっごくかわいいの!  きっと、ミキちゃんやアサミちゃんを見ても、同じ声で鳴くと思う。  あんまりしょっちゅう開けると怪しまれるから、リューゲルと会えるのは、放課後だけ。でも、最近ではそれが待ち遠しい。  掃除用具の中でも、リューゲルは箒の柄に巻きつくのがお気に入り。それから、ご飯がなくっても平気みたいだけど、何かに巻きつきたがるみたい。  わたしが扉を開けると、「きゅーん」て鳴いて、わたしの腕に絡みつくの。  ふわふわのリューゲル。かわいいリューゲル。  あの子の毛皮を撫でながらだと、掃除もはかどるわ。それに、この学校の掃除って箒でのゴミ取りだけだから、机の移動がなくって楽よね。  掃除中は、誰にも見られないように鍵をかけておくし、窓だけ開けるけど、カーテンは閉めておくの。そうすれば、リューゲルが自由に飛び回れるから。  掃除の時間は、半分くらい掃除して、あとの半分はリューゲルを眺めて過ごすの。それだけで、楽しくなるわ。 5/30 ミキ  リューゲルって、不思議な生き物よね。  ご飯は本当に食べない。この間、お昼を少しだけ分けようとしたんだけど、顔をそらされちゃった。 「僕(私かな?)、お腹空いてません」  て感じに。もちろん、しゃべれないんだけどね。  マユちゃんと一緒に掃除するようになって、わたしもはじめてリューゲルが飛ぶところ見たよ。まるで水の中を泳ぐみたいに、すーっと体を動かしてて、絵本で見る龍みたいだったね。  リューゲルは、水の中も泳げるのかな? 試してみたいけど、わたしみたいに泳げなかったら、ちょっと可哀想だよね。  でも、泳いでみたいな。リューゲルと。  リューゲルと一緒だったら、ビート板なしでも25メートル泳げるようになると思う。ううん、いっそのこと、水泳の時間はリューゲルと一緒に泳ぎたい。他の生徒がいないところで。  わたし、歌うのと同じくらい、泳ぐのも苦手なんだ。  水着って、なんであんなに肌を出すデザインなんだろう? 昔の人がうらやましい。下はズボンだし、袖もあるし。ちょっとぴっちりしているけど、またあのデザイン流行らないかな。  MIE達はね、「女の子の日」を使っていつも見学するの。そして、一人ひとり指さして、コソコソ話するんだ。指さしてる子たちを見ながら、だよ。  わたしは出来が悪すぎて、MIE達は休み過ぎて、結局補講でも一緒。それで、MIE達は3人で固まってわたしを指さして笑うの。わたしが顔を背けても、わざわざ移動してくるの。  ときどき、3人のうち2人がわたしを挟むように並んで立つこともある。それだけで、残りの1人と他の補講出席者にも、言いたいことが分かっちゃうんだよね。あの時だけ、わたしは消えてなくなりたくなる。  水泳の補講が、リューゲルと一緒ならいいのに。人間じゃないから、きっと、わたしの事なんて比べようとも思わないよ。
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