1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
2
5/17 ミキ
アサミちゃん、学年1位おめでとう!
連休明けのテスト、自分の順位よりも、アサミちゃんが1番だったことの方が、すごく嬉しい。
わたしのクラスなんて、せいぜいがサボりぐらいだけど、アサミちゃんが1番大変だものね。でも、それにもめげないアサミちゃんは、すごいと思います。
ああでも、今日も書かせて! 今日はね、華さんと対抗している米さんのこと!
米さんは、お父さんがアメリカ人でお母さんはこの学校の卒業生なの。華さんがやたらとバレエバレエっていうなら、米さんはやたらとアメリカアメリカっていう感じよ。
アメリカの常識やしきたりはよくご存じでも、日本のことにおいては世間知らずを通り越して、非常識ね!
「夏休みはバカンスに行くもので、クリスマスはパパとママと一緒に過ごすものでしょう?」
「お父さんがいないの? 離婚? どうして別れちゃったの? あなたがいるのに」
「聞いたことないブランドだけど、そんな安物ですぐ壊れちゃわない?」
「習い事を何もさせないなんて、そんなのありえるの?」
「お庭がない家なんて、味気ないわね」
わざわざ自分で聞いておいて、わたしが「うん」と頷くと、すっっっごく嫌な顔で笑うの。いやらしいって、ああいう表情のこと言うんだわ。
米さんは、わざわざ自分からわたしに話しかけてくるの。彼女、声楽やっているから、クラス中に響くのよね。
「知らない世界を知れて面白い」
なんて、失礼なこと言うのよ。
先生も
「米さんは天然だからなあ」
なんて、呑気に笑うの。
5/20 マユ
ミキちゃんとこの米さん、わたしのクラスにも聞こえてくるわ。そして、うちのMIE達もそれに便乗してるの。
同じ声楽クラブのLちゃんが犠牲になってた。
「米さんの声がうるさいから、綺麗な歌声で上書きしましょうよ」
「そうね。米さんより大きな声を出して、聞こえなくさせよう」
「今の季節なら、この曲がいいわよね」
わたしも、Lちゃんと一緒に歌わされる羽目になったの。ほら、わたしも地声が結構大きいじゃない? 普段は気を付けているけど。
それに、Lちゃん独りをさらしものにするなんて、やっぱり嫌だったから、歌ったわ。
でも、やるんじゃなかった。
わたし、音痴なのよ。歌っている間中、クラスのみんなが笑いをこらえるように肩を震わせているの。わたしをチラチラ見て、顔をそらしてぶるぶる震えて。
Lちゃんも、笑いをこらえてた。でも、歌いながら笑いを堪えるから、彼女の声も変に調子が外れてきて……Lちゃんが笑ったら、みんないっせいに大笑い。
「やだ~最高だわ~」
「いいえ、最低よ! こんなひっどい音痴、実在するのねえ!」
「これは我が校の音楽の授業でも矯正できないわあ!」
MIEたちもゲラゲラ笑って、でも、わたしが歌を止めることは許さなかった。止めるとね、さもわたしがサボったみたいに責め立てるのよ。
先生が注意しに来ても、MIE達の
「音痴を治してあげようとしたんでーす」
なんてふざけた言い分を信じたわ。挙句の果てに、わたしに向かって、
「あー、えーっと、もっとがんばりなさい」
投げやりなこと言って、いなくなったの。先生がいなくなったら、みんな大爆笑。Lちゃんも一緒になって笑ってたわ。
アサミちゃんに習って、わたしもお礼を言うね。
あの日、わたしを慰めてくれてありがとう。わたしったら、いっぱい泣いちゃって、うるさかったでしょう? でも、2人はそんなわたしに嫌な顔せず、ずっとついててくれた。
この前、アサミちゃんが書いてたように、一緒に怒ってくれる友達がいるって、すごくいいことだと思った。だって次の日、2人に会えるんだって思ったら、なんとか学校に行こうと思えたもん。
それから、アサミちゃんが拾ってきたリューゲルのことも、賛成です。
すっごく素敵な思いつきだと思うな。
5/22 アサミ
マユちゃん ミキちゃん
リューゲルのこと、賛成してくれてありがとう。少し、いいえ、とてもほっとしました。
あれから、いくつか本を読んで調べてみたんだけど、リューゲルについて分かっていることはとても少ないの。ネットにも情報がないみたいだから、本当に珍しい生き物なのね。
分かったのは、リューゲルは龍に似ているけど、龍のように大きくならないということ。
体を覆っている毛皮は、光の加減で何色にも見えるそうです。2人にリューゲルを見せたのは、夕日が差し込む教室で、マユちゃんは逆行、ミキちゃんは陰になっていたから、それぞれ、違う色に見えたんでしょうね。
ほんの少しの水と食べ物で生きられるそうです。虫は食べないみたいだから、その点でも安心ですね。
甘い物も好きみたいですが、嗜好品というぐらいだし、虫歯にもなってしまうから、たまにあげるくらいがいいでしょう。
隠し場所に掃除ロッカーを思いついたのは、いいことだと思います。当番をよく押し付けられるわたし達しか、さわりませんものね。
誰にも見つからないように、リューゲルを育てましょう。
お世話をしていくうちに分かってくる事もあるでしょうから、新しいことが分かったら、書いてもらえると嬉しいです。
5/25 マユ
学級委員の雪さんの提案で、クラスの掃除当番はわたしで固定されちゃった。
「わたしがやっても、埃が残っちゃって、却って恥ずかしくなるくらい」
「マユさんがやると、他の誰よりもきれいな教室になるのよね」
「本当。いつでも完璧に、きっちり清潔になるわ」
「手入れが行き届いてて、感心しちゃう」
なんて、見え見えのお世辞。とにかく褒めまくったら、わたしが喜んで引き受けると思ったのかな? 同級生に向ける言葉じゃないわよね。なのに、先生も褒めてたからっていうんで、わたしがほぼ毎日掃除当番することになったの。
だけど、好都合よね。
リューゲルって、基本的に大人しいわよね。お腹が空いても鳴かないの。でも、わたしがロッカーを開けると、「きゅーん」て鳴いたわ。その声がね、すっごくかわいいの!
きっと、ミキちゃんやアサミちゃんを見ても、同じ声で鳴くと思う。
あんまりしょっちゅう開けると怪しまれるから、リューゲルと会えるのは、放課後だけ。でも、最近ではそれが待ち遠しい。
掃除用具の中でも、リューゲルは箒の柄に巻きつくのがお気に入り。それから、ご飯がなくっても平気みたいだけど、何かに巻きつきたがるみたい。
わたしが扉を開けると、「きゅーん」て鳴いて、わたしの腕に絡みつくの。
ふわふわのリューゲル。かわいいリューゲル。
あの子の毛皮を撫でながらだと、掃除もはかどるわ。それに、この学校の掃除って箒でのゴミ取りだけだから、机の移動がなくって楽よね。
掃除中は、誰にも見られないように鍵をかけておくし、窓だけ開けるけど、カーテンは閉めておくの。そうすれば、リューゲルが自由に飛び回れるから。
掃除の時間は、半分くらい掃除して、あとの半分はリューゲルを眺めて過ごすの。それだけで、楽しくなるわ。
5/30 ミキ
リューゲルって、不思議な生き物よね。
ご飯は本当に食べない。この間、お昼を少しだけ分けようとしたんだけど、顔をそらされちゃった。
「僕(私かな?)、お腹空いてません」
て感じに。もちろん、しゃべれないんだけどね。
マユちゃんと一緒に掃除するようになって、わたしもはじめてリューゲルが飛ぶところ見たよ。まるで水の中を泳ぐみたいに、すーっと体を動かしてて、絵本で見る龍みたいだったね。
リューゲルは、水の中も泳げるのかな? 試してみたいけど、わたしみたいに泳げなかったら、ちょっと可哀想だよね。
でも、泳いでみたいな。リューゲルと。
リューゲルと一緒だったら、ビート板なしでも25メートル泳げるようになると思う。ううん、いっそのこと、水泳の時間はリューゲルと一緒に泳ぎたい。他の生徒がいないところで。
わたし、歌うのと同じくらい、泳ぐのも苦手なんだ。
水着って、なんであんなに肌を出すデザインなんだろう? 昔の人がうらやましい。下はズボンだし、袖もあるし。ちょっとぴっちりしているけど、またあのデザイン流行らないかな。
MIE達はね、「女の子の日」を使っていつも見学するの。そして、一人ひとり指さして、コソコソ話するんだ。指さしてる子たちを見ながら、だよ。
わたしは出来が悪すぎて、MIE達は休み過ぎて、結局補講でも一緒。それで、MIE達は3人で固まってわたしを指さして笑うの。わたしが顔を背けても、わざわざ移動してくるの。
ときどき、3人のうち2人がわたしを挟むように並んで立つこともある。それだけで、残りの1人と他の補講出席者にも、言いたいことが分かっちゃうんだよね。あの時だけ、わたしは消えてなくなりたくなる。
水泳の補講が、リューゲルと一緒ならいいのに。人間じゃないから、きっと、わたしの事なんて比べようとも思わないよ。
最初のコメントを投稿しよう!