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鎮魂の企画書
そんな中、わたしの職場に大手の広告会社からイベントの提案が届いた。
「鎮魂のためのキャンドルナイト」というものらしい。
各イベント会社合同で行うかなり大規模なものとしたい、ということで、なつみのろうそく絡みの仕事を担当していたわたしにまず、その企画書が回されてきた。
一読して、そのままデータを破棄した。
表向きは、単に製作者のなつみの安否がわからず、新たな商品の補充ができない以上、もともと予定されていた納品分以外に、新規での取引は不可能だ、という正当な理由をつけて断った。
パソコンのメニューバーから「確実にゴミ箱を空にする」を選ぶ。ぐしゃぐしゃとその企画書の消される音が小さくその場に響いた。
こんな。
感情が麻痺したゾンビのような状態の人間たちが起こす炎によって、いったい誰の魂が鎮まるというのだろう。
企画書の上をつるつると滑っていく、白々しくもそれらしい「悼みの言葉」の気持ち悪さが、それを見た両目の表面から、自分のからだの中にじわじわと染み込んでくるようだった。
そこに一緒に書かれていた「予想されうる利益」の数字のほうが、余程この現実に根ざしていて、いっそ清々しいと思った。
その後「炎に巻かれ、そして今もその火に焼かれ続けている人たちを、よりによって《火を焚いて送る》という悪趣味な企画を打ち出した破廉恥な企業を弾劾せよ!」といった感じで、このイベントの発案に対していろいろな意見が噴出していたようだった。
そもそも、あまりにも大量に流された「炎」の映像の影響もあって、大人子供を問わず「生の炎」に過剰反応する人が増えている現状で、そんなキャンドルナイトをやっても「予想されうる利益」の確保は難しいだろうに。と思いながら、わたしはその炎上ぶりをネットで少し拾い読みして、そのままぱたりとパソコンを閉じた。
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