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不敬
キャンドルナイト。
自分が作ったろうそくの灯りに、こんな形で自分が送られることになる可能性もあるのだなんて、彼女は想像したことがあっただろうか。
溶けないように大切にしまってある小さなろうそくを、デスクの引き出しから取り出す。
わたしの卒業した学部をイメージして作られた、あのかつてのキャンドルナイトのときのそれは、わたしの手のひらからゆっくりと体温を吸い上げていく。
――なつみの作ったものが「お守り」扱いされるようになるなんてね。
――ふふ、ちょっとだけ神様になった気分。こんなこと言ったら不敬きわまりないかな。
――まあ、いいんじゃない。神様もそのくらいはきっと笑って許してくれるよ。
「何が神様だよ……」
わたしの文句も恨み言も、もうどこにも届かない。
わたしを置いて逃げたあなたに、一言でいい、直接文句をぶつけてやりたかった。それがどれだけ身勝手な文句でも。「わたしだってあなたが好きだったんだ、ばーかばーか」とか、目の前で言ってやりたかった。「ラブラブな旦那と勝手に幸せになっちまえ。わたしだって負けないくらい幸せになってやるんだから」と言って思いきり笑いたかった。
落雷での火事からは逃れられたのに、逃れた先で、今度は炎に閉じ込められるなんて。
あなたはどれだけ火に愛されているのよ。
なつみの残していったろうそくを見つめて、わたしは泣いた。
デスクでひとり泣くわたしを、見て見ぬ振りをしてくれるこの職場の環境だけが、今は救いだった。
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