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そんな勇気はなかった
気がつけば、もうすぐクリスマスがやってくる。
「生の炎」への忌避感はまだ強いらしく、今年のろうそくの売れ行きは、防災用の長時間耐久タイプのものを除いて、あまりよくないままだった。
かわいらしく飾り付けられた雑貨店の中で、ひとカゴ幾らで叩き売られている、色とりどりのキャンドルたちに目をやる。
なつみの手がけたものが、うっかりその中に混じっていたりしないだろうかと、最近はこまめに雑貨店をまわるようになった。直接なつみの商品を入荷していた店は、当然ながらすべて知っている。だから、覚えのない店になつみのろうそくがある可能性など、ほとんどなかった。
それはわかっていたのだけれど。
その雑貨店のキャンドルの中には、やはりなつみのろうそくはなかったけれど、わたしはそのカゴの中から、いかにもクリスマス、といった雰囲気の派手なキャンドルをいくつか選び、持ち帰った。
なつみのろうそくは灯せなくても、彼女の愛した溶ける蝋の上でゆれる灯りが見たかったからだ。
――本当は。
自分の知っているすべての店のにある在庫を、自分で買い占めてしまいたいくらいだった。
もちろん、少しでもそれを必要としてくれる人の手元に届くことを願っていた彼女が、そんなことを望まないことはわかっていた。それでも、少しでも多く、彼女の作ったものを手元に置いておきたかった。
だからせめて、ネットオークションやアンティークショップなどで、なつみの作品とされるものを見つけては購入することを繰り返した。
決して灯されることのないそれらが、わたしの家の中で増殖していく。
彼女の生存はもう望めない。
だから、彼女の作ったろうそくは、もう増えることがない。
自分の手元にあるそれらがどれだけ増えても、今はまだ、灯す勇気はなかった。
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