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消える日
今日買った「なつみのろうそくの身代わり」のキャンドルを灯して、テーブルの上に飾る。
そして、そのテーブルの真ん中に、大きな白いケーキを置いた。
一人で食べるには大きすぎる丸いそれの上に、ケーキ用の細いキャンドルをぎっしりと隙間なく並べていく。
本当ならあのとき、福岡で一緒に三十回目の誕生日をお祝いするはずだったなつみと、今日、まさに二十六回目の誕生日を迎えたわたし。白い生クリームの淵に沿って、二重に並んだ五十六本のキャンドルに火が灯る。
そのキャンドルたちは細く頼りない見かけに反して、なかなかに火力が強かった。下のケーキのデコレーションに燃え移りそうで焦ったわたしは、思わずその火を吹き消した。
思ったよりも量の多い白い煙と、燃えた安物のパラフィンの匂いが、生クリームの甘い香りを封じ込める。
――いつかは。
いつかは、あの火も消えるだろうか。
それは、燃えるものがあの中にまったくなくなったときだろうか。
あるいは、いるのかどうかさだかではない神様が、気まぐれですべてを吹き消す息を、あの場に吐きかけてくれたときだろうか。
そして、その火が消えた後、あの場にはいったい、何が。
ケーキの傍らでまだゆれている、身代わりのキャンドルの灯りを見つめる。
炎がゆれる。ゆれる。ゆれて。
正直に言おう。わたしは。
あの炎が消える日が、すこし怖い。
ドームの中を見るのが、怖い。
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