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なつみ
……そんな。
そんな無茶苦茶な話があるか、と思う。
地震でもない、どこかの国のミサイルやら核攻撃でもない、大規模火山の噴火でも原子力発電所の大爆発でもない、ひとつの街を焼き尽くすような何かが突然発生するなんて。
自衛隊もトモダチ再び作戦の軍隊もまったく破壊することのできない、でも見た目はまったくガラスのような物質がいきなり出現するなんて。
これならまだ、巨大不明生物が玄界灘から福岡に上陸した、と言われる方が信憑性がある。と、まだなつみが東京にいる頃、彼女に引っ張られて当時大ヒットしていた特撮映画を見に行ったことをぼんやりと思い出す。
第一。
あのオレンジと赤のうねりが本当に炎だったとして。あのドームが——いや、正確には地下空間をも覆う球体だと推察される、ということだったが——外からの侵入をまったく許さないほどぴっちりと福岡上空と地下を覆い尽くしてしまっているのだとしたら。中で燃えている炎はどこから酸素を取り込んでいるのだ。まだ誰も気づいていない空気穴でもあるというのか。だったら早くそこを見つけてくれよ。そこからなら、あの街の中に入れるんでしょ。誰か、誰か助けてよ。
真実味がないから信じない。
どれだけ子供じみた意見だと言われようとも、それを押し通したくなる。だって、どうやってこれが本当だと思えばいい。思えない。思えるわけがない。
これが本当なら。あれが本物の火ならば。
間違いない。なつみは。
大好きな旦那さんと二人、彼の地で新しい人生をスタートさせたばかりの、誰よりも大切な親友は、もう死んでいる。
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