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実るとか実らないとか
第一回目の灯籠流しが大成功をおさめた後、なつみとはさまざまなイベントでタッグを組むこととなった。
大学の敷地内を一般公開して行ったキャンドルナイトで、各学部のイメージに合わせて作った小さなろうそくが、ちょうどオープンキャンパスで訪れていた受験生やその親御さんに合格祈願のお守りとして買われ、その後、大学生協で取り扱いたいという話になり、じゃあろうそくを入れる「お守り袋」もあったらいいよねと、そのサンプルを二人で夜な夜な手縫いして作ったこともあった。
あれだけ凝ったろうそくを作る手先を持ちながら、なつみは針仕事がてんで駄目で、そのあまりの不器用な運針ぶりに、わたしは涙を流して笑ったものだった。
地元のアイドルグループと組んで、期間限定のイベントグッズを手がけたこともある。
数十人いるメンバーそれぞれのテーマカラーで染め上げ、それぞれのシンボルの花を彫り込んだろうそくは、クオリティの高さと話題性で、彼女たちのグッズとしては異例の売り上げを誇った。
イベントの展示用のつもりで、なつみが半分お遊びで作っていた、全メンバーのろうそくを収納したセットボックスも、あっという間に売り切れ、その後ネットオークションで高額取引が行われているアイテムとして一部で有名になった。
この街出身の漫画家が書いて大ヒットとなったホラー漫画とコラボレートした百物語企画では、話が終わるたびに消していくろうそく百本は、すべて集めて並べると、その漫画の有名なシーンの絵がいくつも浮かび上がるように細工がされていた。
当然、一度使えばその部分の絵は欠けてしまうことになるので、火を灯してしまうことに反対した参加者が続出し、結局その日は、ただ会場で怖い話をするだけの普通の百物語イベントで終わってしまった、などということもあった。
そして、その漫画家の大ファンを公言していた有名なミュージシャンの、新作ミュージッククリップに、彼女のろうそくが取り上げられたことで、その知名度が全国区に押し上げられる、というラッキーなおまけまでついてきたりもした。
もちろん、こんな「うまくいった」ことばかりではなかった。
大量注文を一括キャンセルされて、在庫の山の前で一緒に泣いたり、カラオケでムカつく取引先に対して怒りのシャウトをあげたり、偽名の宛先から失礼きわまりない妬みと呪いに満ちたメールを受け取って神社にお祓いに行ったりもした。
けれども。
どんなことも、全部楽しめた。
大学を卒業後、わたしはそのまま地元の地域復興イベントの運営を手がける会社に入り、なつみの仕事のサポートを続けた。
側にいられるだけでよかった。
恋が実るとか実らないとか、どうでもよかった。そもそも、自分と同じ性別の女性にこういう気持ちを抱くのも初めてだったから、どうしたら「実る」ことになるのかもよくわかっていなかった、というのもある。ただ。ただひたすら。
なつみと一緒に笑っていたかった。
わたしは、ここがあれば、なつみがいれば、頑張れる。
そう思っていた。
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