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三か月
ドームが現れて、三か月が経った。
わたしはぼんやりとテレビをつける。スポーツ中継、ドラマの再放送、アニメ。
ニュース番組にチャンネルを合わせれば、さすがに燃えるドームの姿は今でも映し出されているが。もうすべてのチャンネルで一日中ずっと燃え盛るドームの映像が映っている、ということはなくなった。
あのドームがあることが、だんだん日常と化していく。福岡市街が燃えている状態が普通となっていく。
ドーム出現直後から、付近住民の持つガイガーカウンターの映像がネットに流れ、政府の正式な発表を待つまでもなく、彼の地に微量の放射性物質が放出されていることをわたしたちは知ることとなった。
それに加え成分の不明な、しかし人体に確実によくない影響を及ぼす物質の発生が確認され、ドームに隣接する区のみならず、福岡市は全域立ち入り禁止区域となった。あのとき、ドームのすぐそばで中継を行っていたリポーターが何人も原因不明の病でこの三か月の間に相次いで亡くなったという事実も、この物質の存在を裏付けていた。
でも、三か月経っても。確実なのはこれだけだった。
福岡市街には入れない。近づけない。
そこにいた人たちの安否は確認できない。
それでも連日、九州にはたくさんの人が押し寄せている。おそらくは大切な誰かが福岡市街地にいた、そういった事情のある人たちなのだろう。立ち入り禁止区域ぎりぎりの場所で彼らがドームを見つめて、呆然と立ち尽くしている映像には、いつも悲しげなBGMと、いたわしげなアナウンスがつけられていた。「代わり映えしない」と、その映像についてネット上に匿名で発言した誰かの個人情報が、同じように匿名の誰かによってネットに流されて袋叩きにあい。
でも、すぐに消える。
発生当時は物流なども大混乱していたが、いまはすでに、その騒ぎもある程度沈静化している。
どうしたらいい、という問いかけに答えてくれる声はない。そんな諦めにも似たムードが、少しずつ日本全体を覆い始めているようだった。
みんな、麻痺したのかもしれない。なんの進展も見せないこの状況に、あのときあの場所にいた人たちがどうなったのかなど、もう考えてもどうしようもない、みたいに。
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