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――あと、5分。
午後8時20分、レストランに到着。
大幅に遅刻し、彼女を待たせてしまった。
――チリーン。
軽快な鈴の音に、店内全ての人間が一斉に振り返る。
それもそのはず、この店は平時のラストオーダーが午後8時30分までなのだ。
店内は宴もたけなわと言ったところで、一通り食事と酒を楽しんで出来上がってしまっている客と、目に付かない箇所をそそくさと片付け始めようとする店員とで、すっかり閉店ムードが漂っていた。
そんな中、一番奥の2人掛けのテーブル席に彼女は待っていた。
私が入って来た瞬間に、一度見た者を石化してしまいそうな表情でこちらを睨みつけたきり、怒り心頭なのか下を向き目線を合わそうともしない。
私は、皆の痛い視線を浴びながら、彼女の待つテーブルまで狭い通路を器用にすり抜ける。
「ごめん、本当にごめん。どうしても急な会議で抜けられなくて」
「…………」
彼女は無言で『申し開きがあるなら言ってみよ』と言わんばかりの態度だ。
周りの客達も面白がっているのか、ぶしつけな視線でこちらを見ている。
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