惜別

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 ピンと張りつめた新鮮な空気が無機質な病床に吹き込んできた。  顔を撫でる朝の風はまだヒンヤリ心地いい。  そちらへ目を向ける。  見えるのは、切り取られた真っ青な四角から、アンバランスに一角だけ覗くイチョウの樹。  膨れ上がる萌黄色の若葉達が生命の息吹を抑えきれずに今にも溢れ出し、鮮やかに零れ落ちそうだ。  鳥のさえずりが遠くに響き渡るが、視覚的にその奥行きをうかがい知る事は出来ない。  小さな手をぎこちなく伸ばし、窓を開け放ったレイが戻って来る。  均整の取れたあどけなく愛らしい顔立ちで、瞳と髪は透き通る薄いグレー。  しかし、発せられたコトバはその幼い姿、か細い声からは想定外であろう。 「オヤジ。言う通り、窓を開けたゼ。コレで良かったか?」 「ああ。ありがとう。やはり、外の空気に当たると気持ちがいい。気が安らぐよ。」  意に介さず、錆声のオレが横たわったまま答えた。 「…そういうモンか?」  レイは左目を細め、左に首を傾げる。  ちょっと考えている風な仕草だ。  オレはイチョウにぼんやり目を戻す。  空の青さが一層際立って見えた。
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