10人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
***
「君の隣にいるよ……永遠に」
両肩に手をかけ、細い体を引き寄せ、抱きしめて囁く。
彼女は顔を真っ赤にしながら小さく頷いた。
(まぁ、これ乙女ゲーなんだけどね)
今話題の乙女ゲー『クインティプル』は、五つの国が睨み合う中世ヨーロッパ風の世界が舞台だ。
攻略対象である五人のキャラクターはそれぞれに五つの国の王子であり、国同士の駆け引きや戦争時の緊張感も、このゲームの醍醐味である。ヒロインは村娘であり、一見すると『庶民と王族』という身分差の恋だが、実は王家の私生児という過去を持つ。
……と、ここまでなら乙女ゲーとしては特筆すべき点はないだろう。
だが、『クインティプル』はただの乙女ゲーじゃない。ヘッドギアでダイブし、乙女ゲーの世界をリアルのように体感できる、新感覚次世代型乙女ゲームなのだ。
つまりは仮想現実大規模多人数オンライン、略して『VRMMORPG』というやつだ。
数年前から着々と実用化されてきたが、いずれもRPGや冒険アクションものだ。ホラーなどの要望も高いが、ジャンルがジャンルだけに、心的外傷を負いかねないとなかなか踏み込めていない。
そこに昨今、乙女ゲー業界が参入したのである。
この『クインティプル』は、その口火を切るために作られたゲームだ。
まだ実験的な試みだったが、結果的にこの『クインティプル』は見事に乙女ゲー初の『VRMMORPG』となったのである。
国家間の戦争を扱うものの、あくまでも恋愛が主体なので、主人公が心的外傷を負う心配もない。むしろ、ゲームに幻想を求めるプレイヤーにとってはよだれものである。
そして今、俺はその中にいる。バイトとして。
(さて、次は……)
空中をタップしてメニュー画面を開く。メニュー画面とはいっても、バイトや開発者用の方だ。
攻略対象キャラとして世界にダイブし、その日担当となったヒロインたちの相手をする。それが仕事内容だ。
ヒロインがプレイヤーである一方で、キャラ達の中身も現実世界の人間なのだ。
ぶっちゃけた話、ホストクラブと変わらないし、その事実はプレイヤーたちも知っている。
それでもプレイヤーたちは、敢えてこちらを『二次元』として見ている。というより、『二次元』だと錯覚している。その方がゲームを楽しめるのだから、ある意味当然かもしれない。
(俺の声じゃないってのが、気に喰わないけど……)
最初のコメントを投稿しよう!