使用人達との和解

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使用人達との和解

婚約破棄作戦に失敗した日の夜。 私は今まで非礼を詫びるためにナーサリーに頼んで家中の使用人を広間に呼び出してもらった。 そこには何故かジェフリーの姿もあった。 お父様が忙しそうだったから呼ばなくてもいいって言ったんだけどね。 使用人達は急に呼び出されたことに困惑している様子だった。 何を言われるのか、どんなひどいことをされるのかと不安そうな人達もいる。 あぁ私は私のために世話をしてくれる人達をこんなにも怖がらせていたんだとざわめく使用人達を見て思った。 「皆さん、急にお呼び立てしてしまってごめんなさい。実は皆様にお伝えしたいことがあって集まって頂きました」 ぺこりと頭を下げると使用人達は更にざわついた。 私が使用人達に丁寧に話しかけるのはきっと初めてのことだ。 確かに使用人達に比べたら私は上の身分だけどそれが他人を雑に扱っていいという理由にはならない。 前世は貴族社会ではなかった。 立場や上下関係はあれど生まれながらに皆平等。そんな世界で生きていたのだ。 私はみんなの信頼を取り戻したい。 「私は今まで皆さんにたくさん酷いことをしてきました。一度謝ったくらいで許されるなんて思っていません。けれど言わせてください。今まで本当にごめんなさい」 私は深々と頭を下げる。 「そして今まで親代わりとして私を面倒見てくれて本当にありがとう。せっかく作ってくれた料理を放り投げてしまってごめんなさい。いつも美味しい料理ありがとう。いつも花が綺麗な庭を作ってくれてありがとう。おかげで庭を見る度安らぐわ。いつも家の中を綺麗にしてくれてありがとう。それから……」 料理人、庭師、メイドと一人一人に謝罪と感謝を述べているとメイド長が涙を滲ませながら口を開いた。 「もう、充分です……。お嬢様の心は伝わりましたよ」 はっと気付いてみんなを見るとみんな晴れやかな笑顔をしていた。中にはすすり泣いている人もいる。 「お嬢様がこんなに立派になられてとても嬉しいです」 「俺達は自分の仕事を精一杯やってるだけです。お嬢様が心配することはなにもないですよ」 「でも……」 「自分の行いを反省出来るようになったってのは大きな成長だぜ?喜ばしいじゃねぇか!大人は子供の成長を見届ける義務があるんだよ」 料理長のバロックはガハガハと笑いながらクシャッと私の頭を撫でた。 あんなに酷いことした私をみんな許してくれるの……? あったかい……。 もっと早くみんなと向き合えばよかった。 だってバロックがここまで気さくな人だって知らなかった。 今日は初めて知ったことばかりだ。 これからみんなのこともっと知っていこ……。 「所でお嬢様、旦那様と離れたくなくて婚約破棄したいとおっしゃったのは本当なのですか?」 え゛ぇ゛。 「なぜそれを……」 もしかして、とナーサリーを見てみればナーサリーはぶんぶんと首を横に振った。 となると犯人はあいつしかいない。 ジェフリーのいる方を見てみればジェフリーとバッチリ目が合う。 ジェフリーは楽しそうに口元を隠しながら笑っていた。 あの裏のある笑みはそういうことだったのね……! 「確かに旦那様はとても格好良い方ですものね」 見た目は確かに格好良いと思うよ?私の好みではないけどね。 「何考えてるかわからない所がまたミステリアスですよね」 ミステリアスな所が私的には恐怖である。 「ヴィルフリート殿下が好きで婚約したのでは?」 そりゃ前世を思い出す前までは好きだったけど……。 「ヴィルフリート殿下よりも旦那様が好きってことだろ?」 使用人達が一斉に微笑ましそうな目を向けてくる。 やめて、そんな目で見ないで……! 違うから! 言わなきゃよかったと再度後悔しながらも集まりをお開きにした。 部屋に戻った私は椅子に座り、ノートを開いた。 忘れないうちに整理しておこうっと。 確かお昼頃にヴィルフリートとのお茶会で前世の記憶を思い出して、それからお父様に手紙を渡して……ナーサリーと和解したわね。 睡眠薬入り紅茶を飲むのを間一髪で避けれて本当によかった。 原作だと何の疑いもなく紅茶を飲み干すのよね。 そして急な眠気に襲われる。 普通に薬盛られてる事実が怖いわ……! そしてお父様とお話して、好感度アップのために……。 あれは完全に失敗! そもそもあれくらいでお父様の態度が変わるのなら幼少期も苦労してないわ。 でも今はこれくらいしか思いつかないから継続するしかないわね。 それから使用人達にきちんと謝罪して和解。 周りを味方につけておけば何かあったとき助けれくれるかもだし……。 初日にしては順調順調! あと私が殺されないために出来ることは……。 ……というかいっそのことヴィルフリートと仲良くなってしまえば命を狙われなくて済むんじゃ……? さすがに仲のいい友人を殺そうなんてヴィルフリートも思わないはず。 前世の記憶があるから私はもうヴィルフリートにしつこく付きまとうことはないし、ある程度の好き嫌いは知ってる。 頑張ればヴィルフリートの信用を取り戻せるかもしれない。 でも睡眠薬入り紅茶出された後(多分)だしもう手遅れかな……。 うーん……。 やるだけやってみよう。 円満に解決できるならそれに越したことはない。 そう心に決めてノートを閉じる。 今日は色んなことが起こりすぎて疲れたわ……。 でもなんで急に前世の記憶を思い出したりしたのかしら。 自分の命が危ないから? 考えたって仕方ないか。 私はこの世界で生きていくしかないのだから。 ふと部屋の窓から庭を覗く。 咲いている花達が風に吹かれて大きく揺らいでいるのが見える。 奥の方に何人かの人影が見えた気がしたが、夜遅くということもあって気のせいだろうと結論づけた。 まだやることは山積みだ。 今日はもう寝よう。 私は部屋の明かりを消した。
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