薄紅の恋

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初めてのアルバイト。 髪をポニーテールにしてリボンを結び、なるべくシンプルで動きやすいワンピースにエプロンをして、笑顔でお客様に接した。 慣れないことで、カップを割ってしまったり、注文を間違えてしまったりしたけれど、真由さんも明さんもドンマイと声を掛けてくれて、一週間もすると自然に体が動くようになった。 「いらっしゃいませ」 ここは癒しのカフェ。 それぞれのお客様が笑顔になってまた来ると言ってくれる。 真由さんも明さんもとってもいい人で、こんなによくしてもらえるお店って他にないんじゃないのかなと嬉しくなる。 この優しい雰囲気は真由さんと明さんが作り上げてきたもの。 わたしもそのお手伝いができて楽しかった。 そんなある日。 昼時に、大声で電話しながら店に入ってきた男性客がふたり。 穏やかな雰囲気を吹き飛ばすほどの怒鳴り声に、お店にいたお客様は一斉に顔をしかめた。 「あの、他にもお客様がおりますので大声での電話はご遠慮していただきたいのですが…」 ふたりの男は襟にバッチをつけていた。 見れば龍神会のバッチ。 大神組に潰されて弱小化した組織の… 真由さんが怒鳴るお客様に諭すように声を掛けた。 他のお客様の視線もあり、すぐに出て行ってくれるものだと思ったのだけれど、 「なに?俺の電話の邪魔するわけ?客にそんな態度でいいのか?ふざけんな!!」 テーブルに置いたばかりのグラスを脚で薙ぎ払い、靴のままテーブルに足をあげた。 床に落ちて割れるグラス。 いきり立った男は向かいに座った男を顎でしゃくった。 「おまえが相手しな。こんな店ひとつふたつ潰しても構わねえ」
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