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仁さんは顔色を悪くさせた痩せた男と、床に転がってた男を引き摺って店の外へと出ていった。
「真由さんの甥だったっけ?たいした男だな。あのガラの悪い連中に怯みもしなかった」
奏さんは真由さんの向かいのカウンターに腰を掛けた。
常連客たちは真由さんからの特別コーヒーと謝りの言葉に、もう何事もなかったように寛いでいる。
「名前は?」
真由さんがにっこり笑って答えて、明さんも不器用そうに少しだけ頭を下げた。
「いい男だな。なあ、そう思わないか?榊」
パパはさっきからじっと観ているだけだった。
どうしよう、危ない場面を見られちゃったからアルバイトをやめろって言われるかもしれない。
こんなに素敵な真由さんや明さんのいるお店を辞めたくない…
パパは明さんを見て、わたしと真由さんに視線を戻した。
「そうですね。逃げ出さず毅然とした態度で真由さんと美羽を守りました。簡単なようでいてなかなかに難しいことです」
わたしは蹴飛ばされた観葉植物を直しながらパパを見た。
「美羽のバイト、続けていいんだろ?ここは安心だ」
「ええ、そうですね。…さすが真由さんのお店です」
その言葉を聞いた瞬間に耳を疑った。
もうアルバイトはダメって言われると思ってたのに。
「……いい、の?」
「反対する理由はないでしょう?危ない目には遭わなかったのですし、彼はあなたと真由さん、そしてこの店を守ったのですから」
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