Ⅲ 孤独の異邦人

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「そんな……そんな事ノ為ニワタシノ家族ヤ仲間達ハ……」 「ああ、ほんとにくだらない理由さ。南のミッディラ海を渡った所にあるオスクロ大陸のアスラーマ教諸国や、君の生まれ故郷である東方の国々では禁書扱いされていないというのにね。かつてエウロパの南端に存在した僕の祖国、スファラーニャ王国でも自由に魔導書を利用でき、その研究もかなり進んでいた……その方が世の中を豊かにすることは証明されているんだ……」  今、初めて知ったのであろう、自分から家族を奪った真の原因……怒りと悲壮、虚しさのない交ぜになった表情で唖然と呟く露華に、マルクはさらに残酷な事実を突きつける。 「何デネ……そんな国アル言うのニ、何デワタシハ異国ノ地ニ独り残されなきゃナラなかっタネ……」  譫言のように呟く露華の脳裏には、当時見た凄惨な光景と、その時の感情が無意識にも蘇ってくる……。  まだ幼い彼女の目の前で次々と病に倒れていく家族や一族の者達……子供だったために、当時滞在していた街の大人達の計らいで強制的に隔離され、運良く最後まで感染は免れたものの、帰ってみれば誰一人生きてはいなかったことを知った時のショック……感染拡大を防ぐため、すでに埋葬されていた親族の、棒切れ一本だけが標に立つ土饅頭が累々と連なる墓地の景色……知らない顔、知らない言葉を話す者達の中に、ただ独り取り残された時の淋しさと不安……それはつい昨日の出来事のようでもあり、また、現実味のない夢の中の幻影だったような気もする。 「……そういえバ、今、祖国言ったカ? スファラーニャ……聞いた事ない国ネ。それガオマエノ故郷ネ?」  ふと、そんな記憶の中から戻ってみると、自身も淋しげな眼差しをしているマルクに気づき、興味を抱いた露華はそのことについて彼に尋ねた。 「ああ。知らないのも無理はない。エルドラニア王国に攻め滅ぼされ、今はその一部となっているからね。もう10年以上も前の話さ……エルドラニアの領土拡大の野望もあったけど、プロフェシア教国ではなく、魔導書の禁書政策もとっていなかった僕の国を教会側が邪魔に思っていたこともその理由にある。中でもプロフェシア教会を統べる霊的最高権威・預言皇はね……」 「エルドラニア言えバ、このフランクルと仲悪い超大国ネ。その国ト教会ニ故郷ヲ奪われたカ……じゃ、それからオマエハずっと一人デ旅してるネ? 家族ハいないのカ?」  抱えた悲しみを包み隠し、自分すらも騙そうとする人間の(さが)なのか? 彼女同様、己の壮絶な過去をまるで他人事のように淡々と語るマルクに露華は重ねて問う。
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