Ⅰ 秘密倶楽部の拳闘士

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「ハイ! ハイ! ハイ! ハイネっ!」  若干、速度と威力の落ちたミカルの拳を掻い潜り、露華は独楽鼠のように素早く動き回りながら、その巨体のあちこちに高速の拳打と蹴りを連続で叩き込んでゆく。 「ウゥ……」  その雨霰の如く降り注ぐ攻撃に、ミカルは堪らず巨体を丸めると、露華とは対照的にすべてを真正面から受け止める。 「…ウゥ……ウオォォォォーッ!」 「チッ…硬くて通らないカ……」  だが、小柄な露華の打撃では……いや、普通の人間なら一撃でのされるほどの威力は充分にあるのだが、そんな彼女の拳や蹴りを以てしても、ミカルの分厚い筋肉の鎧は跳ね返してしまうのだ。 「ウオォォォォーッ…!」 「いいぞ! よく耐えた! 頑丈なおまえにはどんな攻撃も効きやしねえ! そのまま防御は考えずに殴っ殴って殴り続けろ~っ!」  再び猛攻を始める黒い巨人に、サリュックやファン達は再び盛り上がり、雄叫びの如き声をホール内に響かせる。 「打たれ強い野郎ネ……デモ、そんなヤツニハ陽拳でなく陰拳ヲ使うマデネ!」  しかし、東方の不可思議な拳法を使う少女は、なおも攻撃を受け流しながら、何も動じることがなかった。  再び襲い来る拳を捌きながら隙を窺うと、まるで小さなヒビにでも沁み込む水の如く、一瞬のその隙を突いてミカルの懐へ入り込む。 「コォ……ハァっ!」  そして、少し変わった呼吸の仕方をすると、渾身の一撃をミカルのシックスパックに割れた腹に打ち込んだ。 「無駄ダ、オマエノ拳、俺ニハ通ジナイ……」  しかし、分厚い筋肉の鎧にやはり阻まれてか、ミカルが片言のフランクルで語るように、その一撃もまるで効いている様子はない……かに思われた。
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