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今日もこの魔法学校では優秀な魔法使いを目指して、みんな頑張っています。
良いことをすると、ごく稀に良いことが返ってきます。
ある日、アスロ君は1人の魔女を助けてあげました。
街からの帰り道、その魔女はカピカピのミイラになる一歩手前まで衰弱して道の植え込みの中に倒れていたのです。
パソコン部品をたっぷり買い込んだアスロ君は、荷物が重たかったこともあり、たまたま持っていた体力回復と魔力回復のマジックボールを魔女に使いました。
魔女は身体を起こせる程度に回復したかと思うと、落ちていた小さな棒を地面に立て、その棒の先に手のひらをかざしました。
まるで萎んだ風船に空気を送るかの如く魔女は回復していきます――。
魔女はびっくりして見ているアスロ君に”お礼に何かしてあげるよ”と言いました。
誰が見ても只者ではない魔女がそう言っているのです。アスロ君は少し考えると、
「無理だろうけど――」
と、冗談をいうかのようにお願い事をしてみました。
「そんなの簡単」
魔女はそう言ってアスロ君に魔法をかけました。
「いいかい、舌を2回鳴らすと発動するからね。発動したその日の15時には効果が切れるように魔法をかけたから気をつけてね」
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それから数日後の文化祭の日。アスロくんは学校近くの物陰で魔法を発動させて登校しました。
文化祭の門をくぐるや否やアスロ君はみんなの視線を集めることになります。ただし、その注目の的がアスロ君だとは誰も気がつきません。
――アスロ君は綺麗な女子生徒になっていたのです。
(うわぁ、マジかよ、俺ほんとに女になってんじゃん!)
アスロ君はこれまで味わったことのない自分に対する羨望の眼差しを尻目に、足早に女子トイレに向かいました。
鏡を見てアスロ君は鼓動が高鳴りました。綺麗です、こんなに綺麗な女性は見たことがないくらいです。
(マジかよ、マジかよ……)
アスロ君は制服の前をぐっと上にあげてみました。胸がたわわな女性のそれになっています!
(マジ? マジ?)
アスロ君は個室に入って手鏡を取り出し、下半身を確かめてみました。
(マジかよ――)
アスロ君はひとしきり丹念に女体化した自分を堪能すると、深呼吸をして15時までの行動計画を立てました。
Mission-1:女子シャワールームに行く。
Mission-2:女子とスキンシップ。
Mission-3:『イケメンヒロインコンテスト』に出て優勝する。
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Mission-1 Start!
「あぁ、汗をかいちゃった」
そう言ってアスロ君(女)は更衣室の戸を開け、さも当たり前のようにシャワールームに入っていきました。
もはや犯罪者といっても過言ではありません……。
ベッド代わりにもなる可変型ソファーが3つほど置かれている広めのシャワールーム。
各々のボディーソープやらコロンやらのとにかく良い香りが温かい湿り気とともにアスロ君(女)を包みます。
シャワー中の女子もロッカーの方のざわつきに気づいて振り返ります。
今朝みた綺麗な人だ――。誰ともなくそんなことを口に出していました。
アスロ君(女)はソファにだらしなく寝っ転がっているメモンさんを見つけました。
(あ、あの女……)
軽くいびきをたてているメモンさの隣では数人の女子が、入れ替わり立ち代わりそっと横になっては添い寝している風な写メを撮っています。
「可愛い人見っけ」
アスロ君(女)は白々しくそう言ってメモンさんの寝ているソファーに腰を下ろしました。
周囲は少なからぬ親衛隊のいるメモンさんと、旧デザインの男子制服を着た男装の麗人を同じに視界に捉えていることに恍惚としています。
アスロ君(女)の視界には、シャツ越しに透けるメモンさんのお胸が重力に負けてわずかに左右に広がっているのが見えます。
無意識に手を伸ばしているのに気がつくと、慌ててお胸ではなくメモンさんの頭に手の向きを変えなでました。
周囲の高まるざわつきに薄っすらと目を開くメモンさん。
(……あ、この制服……)
――ハッとしてメモンさんは身体を起こします!
「アスロ、てめぇ!」
――バレたっ? 慌ててスタンドミラーに目線をやるアスロ君!
メモンさんは制服を着ている者の顔を見ると、あれ? と一言つぶやきました。そこには旧デザインの男子制服を着た美人がいたのです。
冷や汗をぬぐって気を落ち着かせるとアスロ君(女)は、
「寝ぼけたのかしらね、ふふ、可愛い」
と言ってゆっくりと立ち上がるとシャワーも浴びずに更衣室を出ていきました。
Mission-1 Completed!
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Mission-2 Start!
次にアスロ君(女)は女性限定でエステ店を出店しているクラスに向かいました。
順番がきました。
制服の上着を脱いで仰向けで施術台に横になるアスロ君(女)。
施術役の女子はアスロ君(女)の美しさに手が震えています。
それに気がついたアスロ君(女)は、
「だめじゃない、もぅ」
そう言ってその女子を引き寄せるようにして位置を入れ替えると、おもむろに女子の白衣を脱がしていきます。
メモンさんとは違い、たゆんとしない程度の膨らみがシャツの下に透けて見えます。
――女子はとっさに俯せに身を縮めました。
ちっ、とアスロ君(女)は小さく舌打ちすると、必死に目を閉じて顔を紅潮させている女子のシャツの背に両手を入れました。
(やわっ)
と、瞬間、放送が流れました。
”間もなく『イケメンヒロインコンテスト』が開催されます。まだエントリーが済んでいない生徒は至急、会場までお越しください――”
アスロ君(女)は名残惜しそうにシャツから手を抜くと、ごめんなさいね、といって女子に微笑みかけると、足早にエステ店を後にしました。
(くぅ…、まぁスキンシップにはなったか)
ただの犯罪行為ですよ、アスロ君。
Mission-2 Completed?
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Mission-3 Start!
「さぁ、時間が押しておりますので巻いてまいります!」
進行役の女子が鼻息荒く舞台の上でマイクを握っています。
「お待たせいたしましたぁっ! 『イケメンヒロインコンテスト』の開催ですっ!」
――どっと歓声が上がります! 舞台を取り囲むように集まっている生徒たちは思い思いの言葉で叫ぶように声を上げています。
「司会は私、放送部のキャミュウが務めさせていただきますっ」
続けて
「なお、本日は生徒代表審査員は生徒会より3名、そしてなんと、教員代表審査員に”謎の魔女っ娘”ミルハ校長と、”少女研究家”の眼鏡女教師タミー先生をお迎えしておりまーーすっ」
そう言って、一言お願いします、と校長先生にマイクを渡しました。
「みんな楽しんでねー!」
上がる歓声――。
この校長先生はまるで少女のような若すぎる見た目以外に、話が短いのも人気の理由の1つでした。
「ありがとうございまぁす! さて、次はタミー先生お願いしまーす!」
キャミュウはそう言うと、だいぶ押しているんで手短にお願いします、と付け加えてマイクをタミー先生に渡しました。
「あ、えと、”少女研究家”とか紹介されましたけど、それほどでもないんですよっ、でも、本日のために日々美しさに磨きをかけてきた生徒たちを見るのは私としても楽しみで、それでだから、…でも皆さんぐらいの年頃の見た目はまだまだ変わっていくから、良い結果がでなくても――」
キャミュウは、すいませんっ、と言ってタミー先生からマイクを奪うと、ありがとーございましたー! とお辞儀をしました。
笑う観衆――。
話下手なのもタミー先生のチャームポイントの1つです。
みんなの笑いがくすぶっている間に、すかさずキャミュウは大声で叫びます!
「『イケメンヒロインコンテスト』開催だぁっ!!」
コンテストには
・女性専用の”男装ヒロイン”部門
・男性専用の”女装ヒロイン”部門
の2部門があります。
エントリーが発表されていくなかで優勝候補として注目されていたのはいたのは、男装ヒロイン部門ではメモンさんとアスロ君(女)、”女装ヒロイン”部門ではユイオ君……。
ユイオ君はそもそも人前に出ることすら拒む性格です。ただ、名前も見た目も大きく変えた大好きなアスロ先輩がエントリーしているのを目撃して、とっさにエントリーしてしまっていました。
(アスロ先輩、すっげぇ綺麗じゃん……。でも何故に女性専用の”男装ヒロイン”部門に? そして何故に誰も気づかない?)
どちらの部門も大方の予想どおりにコンテストが進み、男性専用の”女装ヒロイン”部門はすんなりとユイオ君が優勝を決めました。
女性専用の”男装ヒロイン”部門も佳境に入ってきています。
「さぁ、ここまで【料理対決】【魅惑魔法対決】【早着替え対決1(制服→水着)】【水着おしくらまんじゅう対決】【早着替え対決2(水着→制服)】と行なってまいりましたこの”男装ヒロイン”部門っ! 同点のまま、この2人が勝ち残ってまいりました!」
ポーズをとるアスロ君(女)とメモンさん。
タミー先生はちーんと鼻血をかんで鼻にティッシュで栓をしています。
校長先生はいつになく大笑いしっぱなしです。
「さぁコンテスト終了の15時まであと5分、最後は、【アピール対決】となりますっ!」
メモンさんは照れるそぶりもなく模造刀をかざして一言二言、そして投げキッスを決めました。
――みんな立ち上がっての大はしゃぎ。
アスロ君(女)の番……。制服の上着の胸元を大きく開いた状態で挨拶をすると、うっかりハンカチを舞台に落とします。
うっかり――なわけありません。拾う際にギリギリまで胸を見せる作戦です。
――大歓声。女子の中にはそんなアスロ君(女)の胸をキャッキャと跳ねて見たり照れ臭そうに指の隙間から覗いていたりする者もいます。男子はというとさっきまで立っていた者もみんな前傾姿勢でなんとか胸をガン見しています(気づいた女生徒からはブーイングも上がっています)。
「さぁ、いよいよ審査結果の発表です――」
キャミュウが叫び終わるのを待たずに、キーンコーンカーンコーン――と時計塔から15時を知らせるチャイムが鳴りました。
ぼむっとステージで小さな爆発が起こります!
――アスロ君(女)が元のアスロ君に戻ってしまいました。
びっくりして尻もちをつくアスロ君とメモンさん。
会場は静寂に包まれます。
ミルハ校長は笑いをこらえています……。
みんなにも徐々に事態が分かってきました。あの男装の麗人がアスロ君だと。シャワールームに来たのもエステ店に来たのもアスロ君だと。
誰かが静寂を破ります。
「誰かそいつを捕まえろっ!」
各々が怒号とともに物を投げつけます。
我を取り戻したキャミュウが落ち着くよう促します。
「みなさん物を投げないでくださいっ、ほら、そこ、缶とか投げないで! 危ないから! そこも! ちょっと、そこの女子っ、脇の男子投げようとしないでっ!」
ステージに上がりこんできた女子のほとんどは、いわゆる被害者でした。
殴るっ蹴るっ、叩いて、どついて火炎魔法――。
――アスロ君も逆切れします。
「なんだよ、見られて悔しいなら俺のも見せてやるよっ!」
ズボンに手をかけるアスロくんを蹴り倒すメモンさん。
「てめぇのナメコなんて見たくねぇんだよ、出したら叩っ切る!」
「なんだと、ナメコ農家の人に謝れっ」
もはやアスロ君も何を言っているのかわからなくなりました。
眼鏡を外して呆然としているタミー先生の隣で、ミルハ校長が威圧的に大声で笑うと、一同、一瞬で静かになりました。
キャミュウがここぞとばかりにマイクを持ちます。
「今年の『イケメンコンテスト』、”男装ヒロイン”部門は優勝者なしということで終了させていただこうと思いますっ――」
Mission-1 Not Completed!
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アスロ君に魔法をかけたのはとてもイタズラ好きな魔女だったようです。
校長先生はユイオ君同様、当初から見抜いていたようですが、アスロ君には1週間の停学を命じました。普通なら犯罪者ですからね。
さて、良いことをすると、ごく稀に良いことが返ってきます。
が、今回の件、アスロ君には果たして良いことだったのでしょうか。
今日もこの魔法学校では美しさに磨きをかけて、みんな頑張っています。
(おしまい)
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