ある晴れた日に

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この前雨の中、彼の本について語ってから、この喫茶店で話をするようになった私達は友達や知り合いというよりも同士やバディーという言葉が似合うかもしれない。 お願いという北原君の表情は強張っていて緊張してるようにも思えた。だから私はその緊張をほぐす為にも軽い口調で返事をする。 「何かしら?私で出来ることなら協力したいわ」 「僕の小説の編集者してくれないかな?」 コーヒーに口をつけようとカップの取手に手をかけたところで北原君から飛び出した言葉に私は脳内が一時停止した。 聞き間違えだなとそう言い聞かせて、震える手を隠しながらコーヒーを一口飲んだ。喉を通るコーヒーがなんだか甘く感じて、聞き直した。 「北原君?ごめん、もう一回いい?何を何するって?」 「だから、北原春風の編集者になって欲しいの。もう出版社の人には話をしてあるよ」 いまいち状況が掴み切れてない私を他所に、北原君はあと5分でここに着くって社長がとスマートフォンの画面を見せる。 「私で出来ることならって話したけど、私なんかが編集者出来るわけないじゃない?」 「えーでもお姉さんさ、一度は小説家目指したことあるでしょ?」 なんで知ってるんだと思うと同時に、なんで分かってるのか聞きたいことが多すぎて言葉が見つからないでいる私に北原君はそのまま話を続けた。 「お姉さんの名前。(あおい)真莉(まり)さん本名でうちの出版社の新人賞に応募したことあるでしょ?今の僕の担当の人がその時に読んでた人でね。凄く気に入って編集長に土下座してその原稿を譲ってもらったって言ってて」 「でも、その結果は北原君も知ってる通り佳作にすらならず私は出版業界とは全く関係のない会社に就職したのよ。つまりひとりだけに響いてもダメなの。売れるためには、大衆向けに受け入れられる文を書けないと意味ないのよ」 「僕の小説だって、大衆向けじゃない。それはお姉さんも読んでて思うでしょ?僕はお姉さんと系列は一緒だよ」 北原君の小説はどちらかと言えば、挑戦的で今までの文芸という中だけで話をすればちょっと毛色の違う子猫が紛れ込んでるそんなイメージだ。 「私はもうすぐ三十路。若い頃のようなインスピレーションはわかなくなってるし、流行にも乗れてないわ」 「だからこそ、僕の担当になって欲しいんだ。」
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