ある晴れた日に

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北原君が子犬のようにキラキラと目を輝かせて、シャチョーと呼ぶその向こうには、おじ様という言葉がぴったりなダンディーな男性が立っていた。北原君を挟んでその姿を見ていた私に気づいたおじ様は、私の視線に気づいたのかふわりと微笑んだ。 「君が、蒼真莉君だね」 テノールの声が心地よく辺りを包み込んで、私は、「はい。私が蒼です。」と恋する乙女のようにやわらかに答えた。 全然、僕たちに対しての態度と違う〜と拗ねる北原君の声が聞こえた気がしたが、視覚、聴覚、嗅覚、すべてをこのおじ様に奪われたような感覚に陥っていた私には水の中から聞いてるようだった。 「君の作品読ませてもらったよ。とてもいい作品だった。前社長はとんだ原石を見逃してたようだね」 「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが、もうあの頃のようなピュアなままの作品はもう描けません。私は大人になりすぎてしまいました。」 「うん。やっぱり君は北原君の編集者にピッタリだよ。どうかな、引き受けてくれないだろうか?」   いやでもと口籠る私にそっと歩みよってきたおじ様は私の手を取って手の甲に唇を落とした。顔に手に、足に血が全身を駆け巡るように身体が火照った。 「んん、社長ーまた悪い癖がでてます」 わざとらしく咳き込んだ上原さんのおかげで私は現実に戻ることができて、北原君が寂しそうに、いや心配そうに私を見ていた。
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