ある晴れた日に

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この地方で梅雨明け宣言がされたある晴れた夏の日の午後、それは突然やってきた。セミの鳴き声に夏らしさを感じながらもその耳にこびり付いて離れない音を追い出すために私は喫茶店へと足を向ける。 マスターが入れてくれたコーヒーを飲んで、久しぶりに読みたくなった私のイチ押しの作家さんのデビュー作品の世界にひたる。 主人公がまだ若々しく荒々しいそのむさ苦しさが時々恋しくなる。この作品は主人公派とその主人公のバディー派とで分かれることが多く、SNSでは最新作が発表されると毎回どこぞのアイドルかとツッコミたくなるほどの論戦が交わされている。またそれにタグ付けしてヒートアップさせてるのが作者なのだから困ったものだ。 因みに私は主人公派(少数派らしい)で、その論戦を外からコーヒーを飲みながら眺めてるのが好き。前にミサトさんにその話をしたら、参加しなさいよと叱られた。(ミサトさんはもちろんバディー派で、タグ付けしてガンガンやってるそうだ) チリンとベルの音がして誰かが入ってきたことはなんとなく遠くの方で感じてたけど、そちらに目を向けれるほど私は器用ではない。きりの良いところまだ読み終えてから顔を上げると同時に声をかけられる。 「あ、お姉さん!やっと現実に戻ってきた?」 「あら、北原君。こんにちは」 「うん、こんにちは。お姉さんは本当に本の世界に入っちゃうんだね」 「あーごめんね、ベルの音は聞こえたんだけど。彼の語りに酔いしれてて戻ってこれなくて」 「ふふ、そういう所が僕好きだよ?」 「どうも、ありがとう。もしかして待たせちゃった?増田さん、北原君にもう一杯コーヒー私がご馳走するからいれてもらえるかしら?」 「あいわかった。」 いつも通りの返事のマスターに、いつも以上ににこにこ顔の北原君に私は少しだけ不思議に思いながら、コーヒーが来るのを待った。 「今日はね、お姉さんにお願いがあって来たの」
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