『まぁ』

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『まぁ』

凜は日本に帰ってからも、結構、密に連絡をとってくれた。 「ノアがね、マシューのことを『まぁ』って呼ぶの」 それって、ママを呼んでるんじゃないかと思ったけど、凜がそう言うならいいかって思った。一時期よりも少し顔色が良くなったと思う。凜はよく左手の小指で薬指の指輪を撫でる。ほとんど、クセになっているね。仕事も再開してるって。無理をしなきゃいいけど。 そんなこんなで2年ぐらいが過ぎた時、凜から連絡がこない日が続いたことがあった。何かあったのかと、メールを送ってみても返事が来ない。やっと連絡がとれたと思ったら、ノアが交通事故にあったという知らせだった。心配で心配で。日本に何度行こうと思ったことか。凜のそばにいたい。勿論、ノアのそばにも。 久しぶりにビデオコールがつながったら、カメラ越しのノアは腕と足にギブスを固定されていた。心配したけど、ノアの声は元気そう。病室?らしい。白衣を着たドクターらしい人が病室に入ってきたようだった。ドクターがノアに声をかけている。ノアがビデオカメラを指差している。ドクターの顔が画面に写りこむ。 既視感。知っている顔。ジョーイを見舞った日本人。差し出された手をスルーして、頭を下げた訪問者。なんでお前がいる?僕の心は黒い霧で埋め尽くされる。 ジョーイの言葉がリフレインする。 「凜をいずれ、彼の処に帰さなきゃいけなくなるんだろうな」 僕は絶対イヤだ。 その後、ノアといつも通り凜が通訳みたいなことをしながら会話を続けたんだけど、何も頭に入ってこなかった。
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