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工場の建物の外から人間の声が聞こえた。
何か話し合っているようすだ。そんなに聞こえる訳ではなかった。
当たり前のことだが、工場の建物に壁があるために聞こえにくいのだ。
でもそれにしてはよく聞こえた。工場の外と中を仕切る扉が開いていたからだったらしい。
ふだんはほとんど聞こえない人間の声だった。工場の中や外で大きな音を立てることがあるので、工場の外の音は聞こえにくかった。
則夫には人間たちは、兄に関する話をしているのか分からなかった。分かると困ることになるのだ。分からないほうが良いと判断した。
則夫の仕事というものか、使命と呼ぶものか、役割と呼ぶものか則夫には全然分からなかった。
でも、則夫は一人で実験をしていた。今、則夫のいる工場では人工知能の研究をしているらしい。
則夫にはあまり詳しいことは分からなかった。
「人工知能が人間に反乱を起こしたのかよ」
「不思議なことだが、そういうことだったらしいぞ」
人間のそんな声がはっきりした口調で聞こえた。則夫は反応する必要はないと判断した。
以前、則夫はギタリストを目指していた。正確には彼自身以外の者にギタリストを目指させられれていた、と言うほうが正しいかったかもしれない。
則夫はギターの演奏の練習の虫だった。
でも、今では研究の虫となっていた。
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